中村直史

三國菜恵 16年3月19日放送

160319-03

もう会えないひと。 森田一義

今年は赤塚不二夫の生誕80周年。
「生誕何年」という文字は、その人がもうこの世にいないことを色濃くする。

赤塚に見いだされ、芸人となった
森田一義ことタモリ。
人生で一番最初に読んだ弔辞は、
よりにもよって、赤塚に向けてだった。

森田は仏壇の前に立ち、はじめてお礼を言った。
言う機会はいくらでもあったけれど、
こんな気持ちがいつも邪魔をしていた。

 肉親以上の存在にお礼を言うのは気がひける

そのことをふと人に漏らしたら、
赤塚も同じことを言っていたと知らされた。

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三國菜恵 16年3月19日放送

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nixang
もう会えないひと。 いくえみ綾(りょう)

かなしい別れをどう乗り越えるか。それは永遠の命題だ。

少女漫画家・いくえみ綾。
人間の魂のゆくえについて描いた作品がある。
タイトルは『潔く柔く(きよくやわく)』。

中学生のある日、ハルタという男の子が突然交通事故で逝ってしまう。
残された幼なじみの女の子、カンナは迷う。
彼を忘れて生きていいものか。
彼を忘れて恋していいものか。

作者はその問いかけを包むように、
最後、こんなモノローグを入れている。

 魂は
 きっといろんなことを
 忘れないでいてくれてるんだと思います

たとえ人間の頭が忘れるようにできていても、
魂がおぼえてくれている。
だから前へ、進んでいい。

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三國菜恵 16年3月19日放送

160319-05
kiki
もう会えないひと。 いとうせいこう

文筆家、いとうせいこう。
彼はもともと、友人と頻繁に会ったりしない。

だから、その人に「もう会えない」と知った時も、
ちょっと連絡が取れなくなった、
ぐらいにしか思えなかった。

その人、というのは
テレビ評論家のナンシー関。
タレントの顔を風刺した「消しゴムはんこ」で有名だ。

いとうにとって、文筆家としての彼女の存在は偉大すぎた。
世界が彼女を失ったという事実を飲み込めず、
いとうはただ、ペンを走らせつづった。

 彼女の身に起こったのは「死」だ。
 だが、彼女はあきらかに僕の中に存在しており、
 それをひとつの名詞で片づけるわけにはいかないのだ。

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中村直史 16年2月13日放送

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stevendepolo
明日、2月14日。 宇野千代

明日、2月14日。
バレンタインデー。
私は、あの人に、告白するだろうか。
しないだろうか。

そんな思いをかかえ、
もんもんとした夜を送っている
女性はいますか?
いますよね、きっと。

そんなあなたに伝言です。
98年間の人生を
全力で思い切り生き抜いた
小説家、宇野千代さんからの、こんな一言。

 恋をしなさい。好きと言えないなんて、ケチな根性よ。

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三島邦彦 16年2月13日放送

160213-02

明日、2月14日。 谷川俊太郎

明日、2月14日。
バレンタインデー。

告白をすると決めたけれど、
失恋して傷つくのが怖いというあなたへ。

詩人の谷川俊太郎さんは、
たくさん恋をして、
たくさん恋にまつわる詩を書き、
3回も結婚した、恋の達人。

そんな谷川さんに、失恋の痛手は、どうやったら癒せるだろう?
と聞くと、こんな答えが返ってきました。

 失恋は恋人を失うことであっても、自分自身の恋する気持ちを
 失うことではない。恋人が離れていっても、恋は終わらない。
 恋は遠くにあって手に入らないものを求める気持ちなのだから、
 もともと孤独なものなのです。

明日、あなたの告白がうまくいきますように。
そして、もし失恋して、さみしくなったら、
谷川さんの言葉を思い出してみてください。

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三島邦彦 16年2月13日放送

160213-03
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明日、2月14日。 深沢七郎

明日、2月14日。
バレンタインデー。

明日が楽しみでしょうがないという人もいれば、
明日なんて来なければいいのにという人もいるでしょう。

作家の深沢七郎は、
「人間滅亡的人生案内」という人生相談の中で、
恋に苦しむ相談者にこんなアドバイスをしています。

 生きてることは悲しいことだと思う必要はありません。
 生きてることは楽しいことだと思う必要もありません。
 ただ、ぼーっと生まれて来たのだから、
 ぼーっと生きればいいのです。

バレンタインデーを、
楽しむ人も、悲しむ人も、
深沢七郎のように、気軽に明日を迎えましょう。

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三島邦彦 16年2月13日放送

160213-04
Steve took it
明日、2月14日。 橋本治

「桃尻語訳 枕草子」で知られる作家、橋本治は、
1985年の冬、
「恋愛論」というタイトルで講演をした。

恋愛論というタイトルながら、
論を語ることはなく、
初恋は同級生の男の子という話から始まり、
自らの過去を吐露し続けた。

脱線に次ぐ脱線の中で、
小学生の頃に母親がいかに
自分を心配してくれていたかを話していた時、
突然話を止めてこう言った。

 ちょっと泣きます。

そしてしばらく泣いたあと、再び話をはじめる。
なぜ泣いていたのかは話さずに。
そのとても個人的な涙は、聴衆を驚かせ、
この講演を長く語り継がれるものにした。
橋本は言う。

 愛は一般論で語れるが、恋愛は一般論では語れない。
 それは、恋愛というものが非常に個人的なことだから。

明日は2月14日。バレンタインデー。
あなたはあなたの、あなただけの恋愛を味わってください。

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三島邦彦 16年2月13日放送

160213-05

明日、2月14日。 ラクロ

明日は2月14日。
バレンタインデー。

プレゼントのチョコレートに
ちょっとした手紙をつけようとしているあなたへ。

貴族たちの恋の駆け引きを手紙の形で描いた小説『危険な関係』の作者、
ラクロからのアドバイスです。

 わかっているでしょうが、
 手紙を書くのは相手に書くので自分に書くのじゃありません。
 だから自分の考えていることを言うよりは、
 なるべく相手を喜ばせることを書くようになさい。

明日のチョコレートには、
あの人が喜ぶような、
とびきり甘い言葉を添えてみてください。

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三國菜恵 16年2月13日放送

160213-06

明日、2月14日。 タニタの人

バレンタインの定番、チョコレート。
甘いお菓子というイメージだけれど、
元々はカカオ豆をすりつぶした
「薬」として扱われていた。

16世紀ヨーロッパの記録書にも、
滋養強壮、疲労回復、長寿などの効用が
書き記されていたらしい。

健康を研究する会社、
タニタの開発員もこんなことを言っています。

 チョコレートに含まれる
 テオブロミンなどにリラックス効果が。
 疲れた時の気分転換にも効果的です。

明日チョコを渡すか迷っている人へ。
「好きです」が恥ずかしいなら
「おつかれさまです」の気持ちで渡してみるのも
いいかもしれません。

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三島邦彦 16年1月23日放送

160123-01
Anna & Michal
土の話 アンリ・ジャイエ

「植物の中で、唯一ブドウだけが
 大地がもつ本当の価値を私たちに伝えてくれる。」

20世紀前半、フランスの小説家コレットはワインへの愛をこう語ったという。

コレットの言う通り、
ワインの原料になるブドウは、
それぞれの土地のあり方を繊細に反映する。
土に含まれるミネラルはもちろん、
水はけのよさ、標高、日照時間、
同じブドウ畑でも、
数十メートル離れただけで味は違ったものになる。

フランスワインの聖地ブルゴーニュ地方で
50年に渡り上質なワインを造り続けた伝説のワイン醸造家、
アンリ・ジャイエは自らの仕事をこう語る。

 私たちの仕事とは、
 自然の恵みを最高の形で引き出すことなんだ。
 素晴らしい豊かさが
 わずかばかりの土地に凝縮されているという事実を前にして、
 ブドウを育てる者はいつも、謙虚にして善良、
 かつ控えめでないといけない。

世界各地の醸造家による、
それぞれの土地のワインを通じて、
私たちは、この星の大地の豊かさを味わうことができる。

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