中村直史

三島邦彦 16年1月23日放送

160123-02
とみたや
土の話 光嶋祐介

乾いては塗り、乾いては塗り、
時間をかけて土を重ねる左官職人の手仕事。

完成までに時間がかかる土壁は、
建築のスピード化の中で
急速にその数を減らしている。

そんな中、
建築家の光嶋祐介さんは、
土壁の魅力をこう語る。

 部屋の空気を呼吸しながら、完成してもなお乾燥して
 新しい表情を見せてくれるのです。人間が歳を重ねると、
 しわが増えることで熟成された顔になっていくように、
 土壁もまた時間に耐えて味わいを増す立派な素材です。

よいものには時間がかかる。
シンプルで大切なことを、土の壁は教えてくれる。

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中村直史 16年1月23日放送

160123-03

土の話 四狭間かなた

「一カ所焼き」と呼ばれる焼き物がある。

提唱するのは、
栃木県佐野市の陶芸家、
四狭間かなた(しさま かなた)。

なぜ「一カ所焼き」なのか。

材料を、とくに陶芸に適したわけでもない、
自分の住む土地の一カ所だけで調達する。

土も、石も、薪も、
近所の名もなき山や川で見つける。
釜も煙突もそのへんの土でつくった。

四狭間さんは言う。

 自分の足で歩きながら、目の前にあらわれる
 さまざまな自然の素材を、
 感謝しつつ手を使って工夫し、焼いて、遊び倒すんです。

「つくる」という行為は、原始的なほど、
おもしろいのかもしれない。

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三國菜恵 16年1月23日放送

160123-04
Yuya Tamai
土のはなし 古田織部

岐阜県で有名な焼き物「織部焼」の始祖、古田織部。
彼の師匠はかの有名な千利休。
卓越した美意識で多くの戦国武将を魅了した利休は、
弟子にも凛とした言葉を浴びせた。

 人と違うことをせよ

その言葉のとおり、古田織部は師匠と同じ道を歩むことなく、
まったくちがう茶器を茶の湯に取り込んだ。
どこか武骨で、ゆがんだ、土そのものをごろりと取り出したかのような茶器。
独特の感性は、「織部好み」と称され、人々に驚きを与えた。

徳川家康は織部の茶器を見て、
畏怖の表情を浮かべながらこう言ったという。
「この茶碗を見ていると天下統一はまだ早いと言われている気がする」

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三國菜恵 16年1月23日放送

160123-05
kanazou
土のはなし 片桐仁

独特の世界観で人気を博す、
コントユニット『ラーメンズ』の片桐仁。
美術大学出身の彼は、粘土作家としての顔も持っている。
デッサン用のねり消しで、コネコネとかたちをつくっていたら、
うまいね、とほめられたのがきっかけだった。

最近では子どもといっしょに、
粘土あそびのワークショップにも取り組んでいる。
片桐は粘土の良いところをこう語る。

 絵だと、うまく描かなきゃいけないって頭が働くけど、
 粘土だとこねてるうちにテンションが上がってくるみたいで、
 子どもたちもノッてくる。
 どろんこ遊びの延長、みたいな感覚で出来ちゃうんです。

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三島邦彦 15年11月28日放送

151128-01
Yuya Sekiguchi
編み物のはなし 御手洗瑞子(みたらいたまこ)

編み物と港町は縁が深い。
遠い昔、
魚を捕まえるための網づくりから編み物は発達し、
セーターは漁師たちの仕事着として編まれてきた。

遠洋漁業の港町、
宮城県の気仙沼。
ここに、気仙沼ニッティングという会社がある。

この町の人々が昔から親しんできた手編み物を
世界に誇れる商品にすることで
復興の途上にある気仙沼の人々に
確かな希望を作り出した。

気仙沼ニッティングの若き社長、
御手洗瑞子はこう語る。

 働くひとが「誇り」を感じられる仕事をつくりたい。
 お客様が「大切にされている」とうれしく感じられる商品をお届けしたい。
 そして世界中の人から素敵だと思われるものをつくっていきたい。

世界とつながる海を眺めながら、気仙沼ニッティングは進んで行く。

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三島邦彦 15年11月28日放送

151128-021

編み物のはなし 御手洗瑞子(みたらいたまこ)

気仙沼ニッティングは、手編み物の会社。
一着15万円のカーディガンに
全国から注文が集まる。

社長の御手洗瑞子が書いた
「気仙沼ニッティング物語」という本に、
こんな一節がある。

 気仙沼ニッティングではこれまで使ったすべてのロットの毛糸を、
 補修用にとっておいてあります。

 
お客様と一生をともにする物をつくること。
そのための準備をしておくこと。
その誇りと責任感が、さらに人を引きつける。

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中村直史 15年11月28日放送

151128-03
music2020
編み物のはなし グレン・グールド

極度の潔癖症でしられたピアニスト、
グレン・グールド。
彼は、極度の寒がりでもあった。

夏でも暖かいセーターにマフラー。
毛糸の帽子をかぶることもあった。

からだの感覚も、精神の感覚も、
ふつうの人とはちがっていたのか。

でも、そんなグールドの演奏するピアノ曲が、
人類を代表する音の一つとして
今日も宇宙を旅している。

いつの日か、グールドを聴いた宇宙生命体は、
人類をどんな生き物だと想像するだろう?

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三島邦彦 15年11月28日放送

151128-04

編み物のはなし アルベール・アンカー

スイスの国民的画家、アルベール・アンカー。

19世紀のスイスの
地方の暮らしを鮮やかに描いた。

にしても、編み物と少女の絵が多い。
たとえば、こんなタイトルたちだ。

「編み物をする少女」
「編み物をする二人の少女」
「バスケットを持って編み物をする少女」
「窓のそばで編み物をする少女」
「眠る幼児を見ながら編み物をする少女」

どの絵でも、
少女たちは目をふせ、一心に編み物をしている。

車の音も、ケータイの着信音もなかったころの
田舎の静けさが聞こえてきそうだ。

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中村直史 15年11月28日放送

151128-05

編み物のはなし フランソワ・クープラン

バロック音楽の作曲家
フランソワ・クープラン。

優美で洗練された、
いかにもフランスらしい小作品を残した。

代表作「クラブサン曲集」は、
230にも及ぶ組曲で構成される。

その曲名の一つ一つが、
18世紀フランスの息吹を生き生きと伝えている。

「森の妖精」
「猫なで声」
「心地よい恋やつれ」
「恋の夜鳴うぐいす」
「小さな風車」

そして「編み物をする女たち」

編み物は、ずっとヨーロッパ人の
心の風景だったのかもしれない。

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三島邦彦 15年8月15日放送

150815-01

戦争と平和 渡辺白泉(わたなべはくせん)

戦場で炸裂する爆弾。
町中に鳴り響く軍歌。
映画や小説の中の戦争はいつも、激しい音に包まれている。

そうした戦争の描き方に、
新しい表現を切り開いたのは、俳句だった。
俳人、渡辺白泉。
70年前の戦争中、こんな句を詠んだ。

 戦争が、廊下の奥に立っていた

猫のように、どろぼうのように、
静かな日常に音もなく侵入し、
いつの間にかその姿をはっきりさせる、戦争。
気づいたときには家庭の奥まで入り込んでしまっている、その不気味さ。

この一句があるおかげで、
私たちは、戦争というものの始まり方に、
あらためて注意することができる。

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