肉体コンプレックス チャールズ・ブコウスキー1
父が失業した。
そして、息子への虐待が始まった。
息子の精神は追い詰められ、
全身が悪性のニキビに襲われた。
その酷さは整形手術を受けるほどだった。
写真など撮られたくもない。
人に近づきたくもない。
ぽつんと孤独な学生時代。
やがて大学を中退し、アメリカ放浪の旅に出た。
肉体労働で稼ぎ、酒びたりになりながら。
安いモーテルで、いつもいつも詩を書いた。
それが、いま世界中でカルト的人気を誇る作家
チャールズ・ブコウスキーの
若い日々だった。
肉体コンプレックス チャールズ・ブコウスキー2
若いときから、
女にまったくモテなかった。
肌はでこぼこ、醜く、孤独な作家
チャールズ・ブコウスキーの小説や詩は
労働者たちに愛された。
ロサンゼルスの郵便局を辞め、
やっと作家一本でやれるようになったのは
50歳のとき。
作品が売れ出したとたん、
いままで無視していた女たちが次々と寄ってきた。
それはまるで甘い砂糖水にたかる虫。
そんな女たちを、恨みでも晴らすかのように抱き、
インタビューでは
「一晩で6人の女と寝た」と笑った。
73歳で亡くなるまでパンクな人生を貫いた
ブコウスキーの墓には、こんな言葉が刻まれてる。
DON’T TRY.
やめておけ。
肉体コンプレックス 三島由紀夫1
肉体は、人生を左右する。
文豪・三島由紀夫の
子どものころのあだ名は、アオジロ。
青白い顔、貧弱な体のせいでイジメられた。
肉体にコンプレックスを抱えた三島は、
作家になってからボディビル、剣道、水泳に通い、
肉体改造にいそしんだ。
そして見事な、
筋肉隆々になった三島はこう書いている。
私はようやくこれを手に入れると、
新しい玩具を手に入れた子供のように、
みんなに見せ、みんなに誇り、
みんなの前で動かしてみたくてたまらなくなった。
私の肉体はいわば
私のマイ・カーだった。
1963年、そのマイ・カーを撮影した
前衛的なヌード写真集『薔薇刑』が発表された。
当代きっての人気作家が世の中に
センセーショナルな裸を突きつけたのだ。
この写真集は、三島の死後、
世界の代表的な写真集として
「20世紀101冊の名作」に選ばれている。
筋肉とは何だろう。
強いものこそ美しいという哲学か。
肉体コンプレックス 三島由紀夫2
三島由紀夫といえば、
数々の名作とともに、ボディビルの印象が強い。
幼いころから
か細かった体を大人になって鍛え上げ、
頑健な肉体に改造した。
作家なのに、なぜそんなに鍛えるのか。
三島はニヤリと答えた。
ぼくは切腹して死ぬからだよ。
本当に切腹するとき脂身が出ないよう、
腹筋だけにしようと思っているんだ。
この強烈なナルシストは用意周到に、
自決する日に向かって
自らの姿をイメージをしていたのだろう。
1970年11月25日、クーデターに失敗し、
三島は本当に腹筋を引き裂いた。
肉体コンプレックス カレン・カーペンター
神から授かった美声の持ち主
カレン・カーペンター。
兄リチャードとのポップ・デュオ、
カーペンターズのヴォーカリストとして、
世界中でメガヒットを飛ばし続けた。
すべてが順調のようにも見えた。
幼いころから兄を崇拝するがために、
自己評価が低いカレン。
すこしぽっちゃりした体型も
ステージ中央に立つことになってしまったことで、
コンプレックスになってしまったのか。
よくあるダイエットは、
狂気の拒食症へと変貌していった。
歌のツアーで非常に激しい仕事をしながら、
下剤を一晩に80錠以上も服用していたという。
身長163cmに対して、
体重はたった35kgに落ち込んだ。
享年32歳。
何がカレンをそうさせたのか。
いまは、美しい歌声が聞こえるだけ。
肉体コンプレックス ゲーテ
文豪、ゲーテ。
ワインを1日2~3リットル吞み、
肉料理や甘い菓子が大好きな大食漢だったという。
74歳のとき、心筋梗塞を患い、
死の危機に直面するが、復活した。
ゲーテは医者に聞いた。
自分の年齢で結婚は体に毒か?
実はこのとき、
ゲーテははるか年下の17歳の少女に
熱烈な恋をしていたのだった。
医者には止められなかった。
しかし、少女の母親からは猛反対され、
結婚は叶わなかった。
肉体コンプレックス 松田優作
1970年代、テレビに松田優作がいた。
人気抜群だったゆえに
固まってしまった自分のイメージに
苦しめられた。
自分自身を壊せ。
映画『野獣死すべし』では
奥歯を4本抜き、体重を10kg減量する。
185cm近い身長も高すぎる、と感じた。
骨を削って低くできないか、
足を5cm切ろうかと思ったという。
ものすごい役者魂。
足が短い人には、
考えもつかない話である。
肉体コンプレックス サミー・デービスJr.
美貌の女優マイ・ブリッドを妻に射止めた
歌手サミー・デービスJrが言った。
いまの自分に不満は一つもない。
すると、底意地悪いインタビュアーが聞いた。
あなたのつぶれた鼻や、
片方しかない目や、
醜さについても?
サミーはこたえた。
ぼくみたいな完璧に醜い男は、
かえって魅力的なのさ。
並みの男くらいなら醜いほうが目立ち、
そのうち魅力にも気づいてくれる、
という持論だった。
なるほど。
きっと、並みのインタビュアーが
足元にもおよばないくらい
モテたに違いない。