名雪祐平

名雪祐平 16年10月29日放送

161029-01

Bob Dylan 『Blowin’in the Wind』

ボブ・ディラン、21歳。

『風に吹かれて』
を書いた。

 どれだけ道を歩けば
 一人前の男として認められるのか?
 いくつの海を飛び越えたら
 白い鳩は砂浜で安らぐことができるのか?
 何回弾丸の雨が降ったなら
 武器は永遠に禁止されるのか?
 答えは 友よ 風の中
 答えは風の中

黒人差別の解消を求める
公民権運動が高まるなか、
書かれた歌詞。

その文学性は、
差別や戦争がなくない限り、
永遠に世界中に響きつづける。

topへ

名雪祐平 16年10月29日放送

161029-02

Bob Dylan 『Like A Rolling Stone』①

ボブ・ディラン、24歳。

『ライク・ア・ローリング・ストーン』
を書いた。

 どんな気分だ?
 何を感じる?
 帰る家もなくして
 誰にも知られることなく
 ただ転がる石のようになってさ

地位も名誉もお金もある女性が
人生を転がり落ちていく歌詞は
その社会批評性が絶賛され、大ヒットとなる。

皮肉にも、
若いディラン自身がこの曲によって、
地位も名誉もお金も手にしてしまった。

しかし、そこに留まろうとするディランではなかった。
Like A Rolling Stone

topへ

名雪祐平 16年10月29日放送

161029-03
brizzle born and bred
Bob Dylan 『Like A Rolling Stone』②

ボブ・ディラン、24歳。

『ライク・ア・ローリング・ストーン』
を歌った。

フォークの神様となったディランが
エレキギターに持ちかえ、演奏始めると、
フォークに固執する客席から「裏切り者!」と
バッシングが飛んだ。

それでもディランはかまわず、歌った。
自分が歩んできた道を破壊したのだ。

 自分自身が変われ。
 転がる石のように。

これが、その夜から、
ロックの定義そのものになった。

『ライク・ア・ローリング・ストーン』は、
ローリングストーン誌が選ぶ
オールタイム・グレイテスト・ソング500の
第1位と輝いている。

topへ

名雪祐平 16年10月29日放送

161029-04

Bob Dylan 『The Times They Are a Changin’』

ボブ・ディラン、19歳。

『時代は変わる』
を書いた。

 ラインが引かれると
 呪いが放たれる
 足の遅いやつだって
 早くなることもある
 今新しいことも
 明日には古くなる
 秩序だって
 混沌に変わる
 正義だって
 悪徳になる
 時代は変わるのだから

この歌詞をジョン・F・ケネディ大統領の
就任演説をテレビで眺めながら
ディランは走り書きした。

2年後にレコーディング。
そのわずか1ヶ月後、
ケネディ大統領は暗殺された。

時代は変わる。
ディランが書いたように、変わる。

topへ

名雪祐平 16年10月29日放送

161029-05
mkarakoulaki
Bob Dylan

ボブ・ディラン、75歳。

『ノーベル文学賞』受賞。

オバマ大統領はツイッターで受賞を祝福した。
「私の大好きな詩人、
 ボブ・ディラン、おめでとう」

ディランは受賞決定後初のコンサートを
ラスベガスで開いた。
多くのファン、世界中のメディアが詰めかけていた。

ディラン、ステージに登場。
観客、総立ち。大歓声。

しかし、受賞のメッセージは一切なく。

『風に吹かれて』など17曲を演奏し、
歌うためにここに来て、去っていった。

歌詞こそ、メッセージ。
ディランらしい態度だったのかもしれない。

 答は風の中

topへ

名雪祐平 16年9月24日放送

160924-01
gailf548
人の形 「嫌悪」

人は、人の形を怖れる。

神、鬼、幽霊、ロボット……。

人とロボットの間には、
「不気味の谷」があるという。

ロボットがリアルに
人に近づいていくほど、
人は好意や共感をおぼえる。

が、ある時点で
突然強い嫌悪に一変する。
それが、不気味の谷。

ロボット以外でも、
こんな「不気味の谷」もある。

赤ちゃんに、母親と他人を合成した
「半分お母さん」の顔を見せても、
見ようとしない。

人は、人の形を怖れる。

もし、鏡にうつる自分を、
嫌悪してしまったら……。

どこか過去と違う
自分なのかもしれません。

topへ

名雪祐平 16年9月24日放送

160924-02

人の形 「性器」

1946年、ローラ・ディロンは、
世界初の性転換手術を受けた。

女から男へ。

ローラは英国上流社会の家のお嬢様。
でも、思春期、胸がふくらんでくると、
自分の女の体を牢屋のように感じ、苦しんだ。

彼女は、いや、彼は、
性同一性障害。

大人になって乳房を切除後、
「形成手術の父」ギリース博士と出会う。
30代に十数回の手術を受け、
立派なペニスをもつ男が誕生した。

性転換など奇想天外でしかなかった
当時の社会で、快挙だった。

しかし十数年後、旅行先のインドで
原因不明の病に倒れ、
非業の死を遂げてしまう。

勇気ある一人の男の死。
享年47歳。

topへ

名雪祐平 16年9月24日放送

160924-03
jupigare
人の形 「混合」

ゾウリムシには、数十もの性がある。

カタツムリは、
一匹で雌と雄の機能をもつ両性具有。

なぜ、人は基本、
男と女の2種類なのか?

(社会学的、心理学的な性別ではなく
 生物学的に)

遺伝子の単純コピーせず、
複数の性が合体し、
遺伝子を混ぜる。

混ぜることで多様性を生み、
危機に対して全滅を避け、
生き延びる戦略があった。

では、混ぜるための最小値は?

「2」

3種以上の性が出会う確率より、
2種だけで繁殖するほうが、
断然シンプルで合理的であるという。

人とチョウの共通の祖先が
生きていた、そんな遥か昔から
混ぜて、
混ぜて、
5億8000万年、混ぜつづけた結果。

あなたが、いる。

topへ

名雪祐平 16年9月24日放送

160924-04

人の形 「死体」

死体大好き。

18世紀、そんな男がいた。
イギリスの解剖学者、
ジョン・ハンター。

解剖、標本のため、
手下を雇って死体を集めた。
墓荒らしは、あたりまえ。
その名の通り、死体ハンターであった。

珍しい人間を見つけると、
相手が生きていても、
解剖したくなって、うずうず。

身長249cmの巨人症のアイルランド人を
見つけると、死ぬ前から人に尾行させた。

アイルランド人は気づき、
自分が死んだら棺桶に重りをつけ、
海に沈めるよう手配していたのだが……。

ハンターは、葬儀業者に賄賂を渡した。

まんまと横流しされた大きな死体が、
運び込まれる。

そこにはもう、
骨格標本を作るために、
巨人をグツグツ煮込める、
特大の鍋が待っていた。

topへ

名雪祐平 16年9月24日放送

160924-05

人の形 「沙織」

栗原まどか 685,000円
沙織    656,000円
愛     595,000円
      ※消費税別途

彼女たちは、等身大のアダルトなお人形。
男に抱かれるラブドール。

東京に住む60代のナカジマさんが、
“沙織”を購入したのは、6年前。

セックス処理用だった沙織に
いつしか情が移ってしまった。
いまでは車いすに乗せて、
買い物や散歩もする。

 彼女は裏切らない。
 私はいまどきの合理的な人間に疲れた。
 みんな、薄情。

いつか、別れる日が来るのだろうか。

ナカジマさんは老いていく。
沙織は、沙織のまま。

topへ


login