薄組・茂木彩海

茂木彩海 11年10月16日放送



すず虫の秋 海野和男

秋の街を、イヤホンなしで歩いてみる。

耳を澄ませば聞こえてくる、その小さくとも確かな歌声は、
かえって都会のほうがよく目立つ。

小さな環境をみていくと、大きな世界が見えてくる。

昆虫博士、海野和男の言葉。

なるほど。
この小さな虫たちの恋のうたが聞こえなくなったころ、
きっと冬は近いのだろう。



落語の秋 三遊亭金馬

お殿さまがある日目黒にお出かけし、
庶民の魚、秋刀魚を初めて食べたからさあ大変。
なんだこの美味い魚は!
その日から、お殿さまの頭の中は寝ても覚めても秋刀魚のことばかり…。

鯛しか食べたことのないお殿さまが
秋刀魚の美味しさに取り憑かれてしまう、
古典落語、「目黒のさんま」。

この噺を得意としたのが、3代目三遊亭金馬。
とにかくわかりやすい落語で人気を博した彼は、
大の釣り好きとしても有名だった。

ところがある日の釣りの帰り道、
汽車の事故で左足を不自由にしてしまう。

体長10センチのタナゴに、気を取られていたのだった。

ぼくは、この小さなタナゴに魅せられて半年も入院したのだから、
実にあっぱれなものと自分でも思っている。

魚に魅せられ、魚で客を笑わせつづけた男。
秋刀魚の美味しい季節になると、
脂ののった金馬の落語を思い出す。



ファッションの秋 川久保玲

コム・デ・ギャルソン。
フランス語で、「少年のように」を意味するブランド。

コレクションの度に世界中を虜にしてきた
ファッションデザイナー、川久保玲。

彼女の作る服の定義は、美ではなく、メッセージ。
これから出来あがる服にどんな思いを込めるか。
そこに全ての熱が注がれる。

川久保は言う。

ファッションは着る人の人間性を包含するもの。
言いたいことは全部、洋服の中にあるのです。

着る服が、今日の心を映すなら。
この秋は、少年のように
自由な服を楽しみたい。

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茂木彩海 11年9月4日放送



歌のはなし 美空ひばり

昭和の時代とともに生きた、日本芸能史最大のスター、
美空ひばり。

彼女の歌の全ては、お客様のために歌われた。
コンサートでは緞帳が下りた後も、おじぎをしたまま
お客が出るまでじっと動かなかった。

そんな美空ひばりが色紙によく好んで書いていた言葉がある。

「今日の我に、明日は勝つ」

それは昭和を生き抜く日本への
メッセージだったのかもしれない。



歌のはなし やなせたかし

子供のころ、誰もが憧れたヒーロー
アンパンマンの生みの親。
やなせたかし。

彼が作詞した「アンパンマンのマーチ」の中の一節に
「愛と勇気だけが友達さ」という言葉がある。
友達はいらないってこと?と尋ねる子供も多いというが、
その中に隠されたメッセージを、彼はこう答えている。

これから闘うってときは、結局自分ひとりになるということです。
「きみも一緒に」などと言っていてはダメなんです、
最後はひとりの覚悟でなければね。

子供たちは今日も、
厳しくも愛のある教訓を、テレビの前で口ずさんでいる。



歌のはなし 忌野清志郎

KING OF ROCK、忌野清志郎。
ギターを手にした日から、自分への挑戦のように音楽にのめりこむ。
人と違う音楽をめざすことが義務となり、自らの制約に縛られていった。
そんな彼を変えた女性が、後に妻となる石井さん。

「付き合ってください」の代わりに、「結婚してください」
で始まった2人の交際は、2人の父の猛烈な反対に合う。

石井さんの父は、売れないミュージシャンとの結婚に真っ向から反対。
清志郎の家に押し掛けるなり今すぐ別れろと怒鳴り散らし、
協力してくれると思った清志郎の父までも、
「バカも休み休み言え。オマエなんかどうやって結婚して生活していくんだ」
と怒鳴り散らした。

もしも自分がスターだったら。
自己満足じゃダメだ。清志郎は売れたいと心底想った。


石井さん 僕は君が好きさ
石井さん 君を忘れはしない
どんなに 忙しくても
石井さん 僕は君を見たい
石井さん 季節だけが通り過ぎていく中で
いつでも…

誰よりも正直に愛を歌った男の歌は、
今もきっと石井さんの心に響き続けているだろう。

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茂木彩海 11年8月7日放送



「夏」のはなし 山下清

「裸の大将」山下清。

3歳になる年に重い病にかかり、
言語障害・知的障害の後遺症が残った。
まわりの子どもたちよりどうしても勉強が遅れてしまう清は、
知的障害児の施設へ預けられた。
ここでのちの画家人生を支える、ちぎり絵と出会う。

驚異的な記憶力の持ち主だった清は、
日本中を放浪しながら、情景を心に焼き付け
帰宅してからその瞬間を思い出して描いたという。

そんな清がとりわけ好んで描いたのが、夏の風物詩、花火。
夜空の黒いキャンバスに、
様々な色彩を浮かびあがらせては消え去る危うさは、
記憶を瞬間でとどめる清に
もっとも適した題材だったのだろう。

あるとき、彼は花火について、こんな言葉を残した。

大人は、もう花火をそんなに好かないものだが 
子供は大好きだと聞いて、僕は、まだ子供なのかもしれないと
少し恥かしくなりました。しかし、何といわれても花火はきれいなので、
僕はこれからも夏になったら見物に行こうと思っています。

清が最期まで描きつづけた鮮やかな花火は、
少年のように純粋でありつづけた
彼の命のきらめきだったのかもしれない。



「夏」のはなし 太宰治

暑い日が暮れる頃
庭に打ち水をして行水を使い
涼やかに風の通る着物を着て縁側に座ったら
どんなに気持がいいだろう。

そんな夏の魅力に、思いがけず救われた命がある。

 死のうと思っていた。今年の正月、
 よそから着物一反もらった。
 着物の布地は麻であった。
 鼠色の細かい縞目が織り込まれていた。
 これは夏に着る着物であろう。
 夏まで生きていようと思った。

太宰治。夏に生かされた男の最期は、
結局、新しい夏を待てなかったが。

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茂木彩海 11年7月30日放送



子どもの時間 手塚治虫

ベレー帽に分厚い眼鏡。
漫画の神様。手塚治虫。

子どもたちのために漫画を描き続けたその人は
きれいごとだけを並べて、
子どもを子ども扱いするようなことはしなかった。

鉄腕アトムで、愛と、後戻りできない科学への不安を。
ジャングル大帝で、自然の広大さと、人間の愚かさを。
ブラックジャックで、命の大切さと、それを操る不自然さを描いた。

そんな彼が小学生たちに言った言葉。

 人生で一番大きなショックの出来事を
 忘れないで大事に持っていてください。
 きっと役に立つ。

やさしくてやわらかい時間だけでは、子どもは大きく育たない。

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薄組・茂木彩海、参戦します

7月から茂木彩海が参戦します。

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