すず虫の秋 海野和男
秋の街を、イヤホンなしで歩いてみる。
耳を澄ませば聞こえてくる、その小さくとも確かな歌声は、
かえって都会のほうがよく目立つ。
小さな環境をみていくと、大きな世界が見えてくる。
昆虫博士、海野和男の言葉。
なるほど。
この小さな虫たちの恋のうたが聞こえなくなったころ、
きっと冬は近いのだろう。
落語の秋 三遊亭金馬
お殿さまがある日目黒にお出かけし、
庶民の魚、秋刀魚を初めて食べたからさあ大変。
なんだこの美味い魚は!
その日から、お殿さまの頭の中は寝ても覚めても秋刀魚のことばかり…。
鯛しか食べたことのないお殿さまが
秋刀魚の美味しさに取り憑かれてしまう、
古典落語、「目黒のさんま」。
この噺を得意としたのが、3代目三遊亭金馬。
とにかくわかりやすい落語で人気を博した彼は、
大の釣り好きとしても有名だった。
ところがある日の釣りの帰り道、
汽車の事故で左足を不自由にしてしまう。
体長10センチのタナゴに、気を取られていたのだった。
ぼくは、この小さなタナゴに魅せられて半年も入院したのだから、
実にあっぱれなものと自分でも思っている。
魚に魅せられ、魚で客を笑わせつづけた男。
秋刀魚の美味しい季節になると、
脂ののった金馬の落語を思い出す。
ファッションの秋 川久保玲
コム・デ・ギャルソン。
フランス語で、「少年のように」を意味するブランド。
コレクションの度に世界中を虜にしてきた
ファッションデザイナー、川久保玲。
彼女の作る服の定義は、美ではなく、メッセージ。
これから出来あがる服にどんな思いを込めるか。
そこに全ての熱が注がれる。
川久保は言う。
ファッションは着る人の人間性を包含するもの。
言いたいことは全部、洋服の中にあるのです。
着る服が、今日の心を映すなら。
この秋は、少年のように
自由な服を楽しみたい。