薄組・茂木彩海

茂木彩海 17年5月28日放送

170528-08

ダンスのはなし 土方巽のことば

日本独自のダンスに、暗黒舞踏というジャンルがある。

確立させたのは土方巽だと言われているが、
彼はこんな言葉も残している。

 自分の肉体の中の井戸の水を一度飲んでみたらどうだろうか。
 ところが、みんな外側へ外側へと自分を解消してしまうのですね。

天を目指すバレエとは真逆に、
座り込み、床に転がり、身体全体で表現される土方の舞踏。

身体の奥底から絞り出されたその動きは、
土方の生き方そのものを表している。

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茂木彩海 17年4月30日放送

170430-06

図書館の話 冬眠図書館

18種類の架空の仕事と、その従業員のインタビュー集。
タイトルは、「じつは、わたくしこういうものです」。

この中に、一風変わった図書館が登場する。

なんでも、その図書館は冬の間だけ小さな森の中に夜通し開いていて、
お夜食としてコーヒーと、パンと、シチューがふるまわれるという。

司書は、そのシチュー当番を任される重要な役職だ。

冬眠図書館は
冬眠するように本を読むための図書館です。

誰にも邪魔されず一人、本の世界にこもる。
本好きの夢が、ここにある。

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茂木彩海 17年3月26日放送

170326-05

風の話 「多分、風。」

冬が終わり、耳元をあたたかい春風がかすめると、
なんだか懐かしいような、甘ったるい気分になる。

サカナクションの楽曲、「多分、風。」。

 畦 走らせたあの子は 多分 風
 焦らせたあの仕草は 多分 風

自転車であっさりすれ違った「あの子」と「自分」。
その瞬間に起きた「風」を
実はお互いを気にしている「空気」として描いている。

 風走らせたあの子にやや熱い視線
 焦らせたこの季節に 連れて行かれたら

風が起こるのは、そこに何かのエネルギーがあるから。
それが恋だとしても、おかしくないのかもしれない。

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茂木彩海 17年3月26日放送

170326-06

風の話 風の妖怪かまいたち

日本では昔から、摩訶不思議な出来事が起きた時、
その出来事に名前をつけ、妖怪の仕業だと考えていた。

たとえば、外へ出て冷たい風に触れると
知らない間に太ももや手の甲などにあかぎれができる。
これは、かまいたちという妖怪の仕業。

冷たい風もようやく春風に変わる3月。
かまいたち達も、
気持ち良い風を受けながらまどろんでいるころだろうか。

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茂木彩海 17年2月26日放送

170226-04

手のはなし 松浦弥太郎の手

 指先と手を常に清潔に。

これは文筆家、松浦弥太郎が定めた
「100の基本」の中の33番目の基本である。

 ものをさわる、仕事をするなど、
 手というのはとても大切な道具です。
 一番上等で大活躍する道具として、
 指先と手の手入れはくれぐれも抜かりなく。

松浦に倣い、たまには休めた手をじっと見つめ、
ねぎらいの言葉を掛けてあげるのも良いかもしれない。

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茂木彩海 17年2月26日放送

170226-06

手のはなし 自然の手仕事

『沈黙の春』で知られる作家、レイチェル・カーソン。

海洋生物学者でもある彼女は、著書の中で自然を丁寧に描写し、
そのまなざしは、雄大な自然にはもちろん、枯葉の下の小さな虫にも注がれる。

 自然のいちばんの繊細な手仕事は、
 小さなもののなかに見られます。

彼女の最期の手記、『センス・オブ・ワンダー』に残された
この一節。

自然が生んだ造形を「手仕事」
と表現する彼女の言葉には、
その「小さなもの」を、見事な出来栄えの工芸品を扱うように
実際に手にとり、近くで眺めてみてほしいという
想いが込められているようだ。

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茂木彩海 17年1月29日放送

170129-03
Mugu-shisai
宇宙のはなし 三島由紀夫の解釈

三島文学としては異例の
宇宙人やUFOが登場する小説、「美しい星」。

物語の主役は、埼玉県に暮らす四人家族。
地球で暮らしながら自分たちは宇宙人である
という自覚を持っていて、
人類滅亡の危機を救うべく奮闘する姿が描かれる。

 この小説を書く数年前、私は「空飛ぶ円盤」に熱中してゐた。
 しかし、どんなに努力しても、円盤は現はれない。
 そこで私は、「空飛ぶ円盤」とは、一個の芸術上の観念に
 ちがひないと信じるやうになつたのである。

宇宙にあこがれながらも、一方で
「空飛ぶ円盤」は観念であり、芸術なのだと説く三島の解釈に
なんとなく納得してしまうのは
宇宙をテーマにした芸術作品がこの地球に星の数ほど存在するから。

これからも、私たちは夜空を見上げ、宇宙を想い、
またあたらしい作品を生み出していくのだろう。

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茂木彩海 17年1月29日放送

170129-04

宇宙のはなし 野口聡一の言葉

アジアを代表する宇宙飛行士、野口聡一。
宇宙での経験談としてこんな感想を述べている。

 最初に驚くのは、動くものは止まって見えて、
 止まっているものは動くことかな。
 謎かけみたいですけど、この二つは大きいと思います。

時には凝り固まった常識を捨て、違う目で物事を見る。
宇宙にだって、大切にしたい教訓は溢れている。

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茂木彩海 16年12月25日放送

161225-03
Ashley Coombs
ことばの贈りもの 女心をつかむコツ

ショーン・ペンが、かつての人気ロックスターを演じた異色の
ロードムービー、「きっとここが帰る場所」。

ファッションの趣味も好きな歌手もまったく異なるロック少女に
恋をしたが故、相手にしてもらえず落ち込む少年に、
ショーン・ペン演じる主人公、シャイアンは
ゆっくり、優しく、こんなことばを贈る。

 女心をつかむコツは時間をかけること。
 彼女のそばにいて、一緒に時を過ごせ。
 大事なのは、安心してもらうことだ。

具体的な行動を起こすのではなく、
ただそばにいるというアドバイスは、
少年にとって、ちょっと意外でありながら
かけがえのない助言となったに違いない。

今日は、クリスマス。
大切な人のそばにいること。それこそが、
聖なる夜にふさわしい、いちばんの贈りものなのかもしれない。

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茂木彩海 16年11月27日放送

161127-03
北京老佟
のりものの話 車いす技師 安大輔

競技用車いすの設計技師、安 大輔。
担当するのは、車いすテニスで初のプロ転向を果たした国枝慎吾。
もう10年の付き合いになる。

国枝の口から不満の言葉を聞いたことはないが、
「完璧だ」と言われたこともない。

安は言う。

 その時その時に最高の1台を作らないといけない。
 でもそれを作った瞬間に、また新たな課題が出てくる訳です。
 だから彼の車いすはずっと未完成のまま。

体の変化に合わせるように、車いすも変わっていく。
乗り物が体の一部に感じられるほど、アスリートは自信をつける。

それがどんな自信なのか。国枝はこんな言葉を残している。

車いすは、自分にとっての足だ。

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