薄組・薄景子

熊埜御堂由香 19年9月29日放送


NASA Goddard
月のはなし 売りに出された月の砂

月面は「レゴリス」と呼ばれる砂に覆われている。
1969年に初めて月面歩行を果たしたニール・アームストロング。
彼がその砂を小さなバッグに入れて持ち帰った。
そのバッグは「LUNAR SAMPLE RETURN」、
とラベルが貼られ、数奇な運命をたどることになる。

1980年代にある博物館に貸し出された月の砂のバッグ。
展示品を、秘密裏に売却し続けていたその博物館の館長の
賠償金として、誤ってネットで売りに出されてしまう。

2015年には、
「月の砂入り。ミッション不明」という、いわくつきのタイトルで、
たった995ドルで、イリノイ州の女性の手に渡る。

落札後、NASAの鑑定で貴重品と判明。
取り返そうとしたNASAは女性との訴訟に負けてしまう。

そして、2017年、月面着陸48周年に
公の競売にかけられたそのバッグは180万ドル、
約2億円で落札された。

人の手から、手へと、流転した月の砂。
穏やかに地球を照らす月は、
その様子を微笑んで見ていたかもしれない。

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若杉茜 19年9月29日放送


magnusvk
月のはなし 絵のない絵本

アンデルセンの作品、『絵のない絵本』。
主人公は貧しく孤独な絵描きの青年。
夜、寂しさに襲われて、彼が窓の外を見上げると、
そこには故郷と変わりなく輝く懐かしい月がいた。

月は時折やってきて、彼に自分が世界中で見てきたお話しを聞かせるようになる。
彼は、それを絵に描いていく。月が彼に聞かせるのは、絵を持たない絵本なのだ。

月はどこにいても出会える懐かしい存在として、優しく世界を照らしてくれる。
そして今日も私たちの人生を、そっと見守っている。
ずいぶん遠くにきてしまったなあ、
と思った時には、月を見上げてみるのもいいかもしれない。

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薄景子 19年9月29日放送



月のはなし 月の光

もしも、この世に月がなかったら、
生まれなかった物語はいくつあっただろう。

生まれなかった言葉は、歌は、
生まれなかった恋は、世界にいくつあっただろう。

ドビュッシーの名曲、「月の光」。
幻想的な月夜をイメージするこの曲は
フランスの詩人、ヴォルレーヌの詩「月の光」に
魅了されたドビュッシーが
その詩にあわせて歌曲をつくったのがはじまり。
彼はその曲を恋人、ヴァニエ夫人にささげ、
のちにピアノの音だけで「月の光」を表現したという。

静かで、どこか切なく、心にそっと寄り添うメロディは
月明りの夜、物想いにふけるのにちょうどいい。
ふと、会いたい人の顔が思い浮かんだら、
それは月の光が、あなたの胸を照らした証拠。

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小野麻利江 19年9月29日放送



月のはなし 田毎の月

「棚田」と呼ばれる、
階段状に小さく区切られた水田。
その棚田の一つ一つすべてに月が映るさまを
日本人は「田毎の月(たごとのつき)」
と呼んできた。

数々の浮世絵師がこの構図を好み、
俳句では、秋の季語となっている。
特に有名なのが、歌川広重による浮世絵、
「信州更科田毎月鐘台山
(しんしゅう さらしな たごとのつき きょうだいさん)」。
段々になった田んぼそれぞれに、
満月を浮かばせている。

しかし、「すべての田んぼに1つずつ月が映る」というのは、
実際には不可能な光景。
どんなに田んぼがたくさんあっても、
月が映るのは一つだけ。

創作の世界で花開いた、月の表現。
与謝蕪村の一句でも、
朧げながらも沢山の
月の光の明るさが、立ちのぼる。

 帰る雁 田毎の月の くもる夜に

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茂木彩海 19年9月29日放送



月のはなし 月に誓って

夜、暗闇にぼんやり優しく光る月は、
昼間の太陽との対比だろうか、
なんとなく見る者を、まろやかに、ロマンチックな気持ちにさせてくれる。

満月の夜は、ちょっと得した気持ちになるし、
三日月の夜は、細くても強い、その光を頼もしく感じる。

そんな月の変化を恋心に言い当てたのは、かのシェイクスピア。

常に変化しているのだから、月に誓ってはならない。
それではあなたの愛もまた変わってしまうだろう。

「ロミオとジュリエット」の一節でもあるこの言葉。

月は、満ちたり、欠けたりしながら、
月の下に集う恋人たちの、変わらぬ愛を試しているのかもしれない。

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茂木彩海 19年9月29日放送



月のはなし 世界のお月見

お月見をするのは、なにも日本人に限ったことではない。

海外のお月見も、日本と同様に
そのほとんどが収穫を感謝するためのものだが、
ヨーロッパではもともと月を
人々のリズムを狂わす「狂気」の象徴と考え
満月でオオカミに変身してしまう「狼男」や
月の元でしか生きられない「ドラキュラ」が生まれた。

同じお月見でも、国が変わればこんなに違う。
いずれにしろ、人類は月の秘めたるパワーを感じざるをえないのだ。

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薄景子 19年8月11日放送



太陽のはなし ウィルコックスの言葉

人生には、光もあれば闇もある。
暗闇のさなかにいるときは、
トンネルから永遠に抜けられないのではと
不安に駆られることもある。

そんな時に思い出したいのが
アメリカの詩人、
エラ・ウィーラー・ウィルコックスの言葉だ。

 ひとつひとつの悲しみには意味がある。
 時には、思いもよらない意味がある。
どんな悲しみであろうと、
 それは、このうえなく大切なもの。
太陽がいつも朝を連れてくるように、
 それは確かなことなのですよ。

不確かなことだらけの世の中で
太陽は、何十億年にもわたって、
毎日、裏切ることなく朝を連れてくる。

永遠に約束された光があるから
人は今日も前を向ける。

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茂木彩海 19年8月11日放送



太陽のはなし 太陽と芸術家の関係

あらゆる芸術家と親交があったと言われている、
19世紀を生きたフランスの作家、ロマン・ロラン。

学生時代には文学を学ぶ傍ら、美術や音楽などアート活動に没頭。
その後文学作家となってノーベル文学賞を授与した
「ジャン・クリストフ」ではその知識と情熱から、全10巻に渡り
ベートーヴェンを主人公にした物語が紡がれている。

彼が遺した言葉に、太陽と芸術家にまつわるこんな一文がある。

 太陽がないときには、それを創造することが芸術家の役割である。

美術館の細い廊下を抜けた途端、素晴らしい絵画を目の当たりにした瞬間。
コンサートホールで鳥肌が立つほど美しい旋律を聴いた瞬間。

曇った心は晴れやかに、気持ちを一変させてくれる。

芸術家が生み出しているのは、
誰かの心を照らす小さな太陽、なのかもしれない。

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小野麻利江 19年8月11日放送



太陽のはなし 太陽が光を奪われた年

「人類史上最悪の年」。
中世を専門とする歴史家によると、それは「西暦536年」。
「太陽が光を奪われた年」だという。

その年の初め、アイスランドで噴火が起き、
火山灰が、北半球中に撒き散らされた。
その火山灰が微小な固体の粒子・エアロゾルの幕となって、
太陽の光を遮ってしまった。

ヨーロッパ、中東、アジアの一部で霧が垂れ込め、
なんと18ヶ月にも渡って、昼夜を問わず暗闇が続いたという。

夏の気温は3度近く下がり、
中国では夏に雪が降り、
東ローマ帝国の3人に1人の命を奪う
「腺ペスト」の蔓延のきっかけとなった。

東ローマ帝国の歴史家・プロコピウスは、こう記している。

1年中、まるで月のように太陽の光から輝きが失われた

人間の営みに、太陽は欠かせない。
この先、さらに、科学が進歩しても。

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石橋涼子 19年8月11日放送



太陽のはなし 太陽は何色か

太陽の絵を描いてください。
と言われたら、何色を使うだろうか。
日本では赤が多いかもしれないが、
海外では黄色やオレンジが主流だ。
朝日や夕陽、シーンによっても違うかもしれない。

宇宙空間で観察すると、太陽は白だと言う。
いくつもの光が混ざり合っており、
全ての光を重ねあわせると白色になるのだ。

それでも私たちが異なる色だと認識するのは、
地球にある空気のせいだったり、
人間の目が感じる色のちがいだったり、
あるいは、単なる思い込みだったりする。

空は青く、雲は白く、太陽は赤い、
というイメージを
一度リセットしてみるのも楽しいかもしれない。

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