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三島邦彦 13年5月18日放送



薔薇の季節 青いバラの研究者

英語のblue roseは「不可能」を意味する。
薔薇は青の色素を持たないので、
青い花を咲かせることはない。
ギリシア・ローマの時代から知られるこの常識を破ったのは、
日本の科学の力だった。
たずさわった研究者はこう語っていたという。

幸せを象徴する青い花を作って世の中を明るくしたい

努力が生んだ、青いバラ。
その花言葉は、「夢、かなう」。

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三島邦彦 13年5月18日放送



薔薇の季節 ウィリアム・モリス

モダンデザインの父、ウィリアム・モリス。
19世紀のイギリスで
書籍やカーテンなど日用品のデザインを洗練させ、
人々の生活における美意識を高めようとしたその活動は
アーツ・アンド・クラフツ運動と呼ばれ、
デザインの世界に革命的な影響を与えた。

モリスにとっての重要なモチーフ。
それは、植物。
草木の葉やツルをパターン化した彼のデザインは今も、
壁紙やテーブルクロスとして世界中の家のリビングを飾っている。

数ある植物の中で彼が特に愛した花、それは薔薇。
ある日、モリスの庭で育ててもらおうと
最新の品種改良をされた薔薇がモリスへ送られた時のこと。
薔薇を見るなりモリスはこう言った。

 全体の形でも細部でも、道端の茂みにある薔薇より美しい薔薇はない。
 どんな香りも、その芳香よりも甘くなく純粋ではない。

モリスのデザインが追い求めたもの。
それは、野に咲く薔薇のように自然なものだけが持つ
完璧な純粋さだった。

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三島邦彦 13年5月18日放送


Ako
薔薇の季節 北原白秋

日本文学の歴史において、花と言えば、桜と梅。
その歴史の中で薔薇は、ほとんど描かれることはなかった。

明治時代。
文明開化の世の中で、
歌人、北原白秋はこんな歌を詠んだ。

 目を開けて つくづく見れば 薔薇の木に 薔薇が真紅に 咲いてけるかも 

歌人が薔薇の花に美しさを感じた時、
世の中に、文学に、
新しい風が確かに吹き始めていた。

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三島邦彦 13年5月18日放送



薔薇の季節 シレジウス

17世紀のドイツ。
詩人のシレジウスは、
こんな一節を残した。

 薔薇はなぜという理由もなく咲いている。

 薔薇はただ咲くべく咲いている。

 薔薇は自分自身を気にしない。

 人が見ているかどうかも問題にしない。

数百年の時を経て、今年も薔薇が咲き誇る。
シレジウスの胸を打った時と変わらず、
あくまで自然に美しく。

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三島邦彦 13年4月14日放送



ピンチ! 羽生善治

天才棋士、羽生善治。
時に訪れる不利な局面にも、
彼は喜びを感じるという。
羽生は語る。

 追い詰められた場所にこそ、大きな飛躍がある。

ピンチを楽しみ糧にして、
天才は、さらに強くなっていく。

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三島邦彦 13年4月14日放送


hto2008
ピンチ! ジャッキー・チェン

オバマ大統領も、クリントン元大統領も、
彼の映画のファンだという。
その男の名前は、ジャッキー・チェン。

ブルース・リーの映画のエキストラからキャリアをスタートした彼は、
カンフー映画に命がけのアクションとユーモアを持ち込み、
アジアのトップスターへと登りつめた。

どんなに危険なシーンでもスタントに頼らないジャッキー。
映画の中の主人公とジャッキーは常に一体。
だからこそ、観客は彼から目が離せない。

しかし、あまりにも危険な撮影のため怪我は絶えない。
全ての指は骨折したことがあり、ほとんどの関節は脱臼したことがあるという。
それでも、ジャッキーは危険へと自らを駆り立てる。
25メートルの時計台からの飛び降りに失敗して首の骨を折った後も、
怪我が完治すると同じシーンを撮り直した。

ある日、記者が死ぬのは怖くないのかと尋ねた時、
彼はこう答えた。

 映画の中以外で死ぬのはごめんだよ。

ジャッキーのピンチが面白いのは、
それが本当のピンチだからだ。

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三島邦彦 13年4月14日放送



ピンチ! 稲盛和夫

経営破綻したJALを驚異の再生へ導いた経営者、稲盛和夫。
その再生の道は「人間として何が正しいのか」を説くところからはじまった。
時として社員を怒らなければいけないこともあった。
プライドの高い社員を叱る時にはまずこう言ったという。

 君は、私の子どもよりもさらに若いのだから、自分の子どもだと思って叱るぞ。

親が子を諭すように倫理を説く。
この愛情が浸透した時、ピンチはすでにピンチではなくなっていた。

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三島邦彦 13年4月14日放送



ピンチ! 石川直樹

北極でシロクマに出会ったら
ライフルを撃たなければいけない。
シロクマにではなく、空に向かって。

冒険家、石川直樹。
世界中を旅してきた彼にとっても、
その緊張感は特別なものだった。

ぼくはシロクマと向かい合った瞬間のびりびりするような緊張感が忘れられません。
いま見ている世界が、世界のすべてではないということを思い出させてくれるこのような
瞬間を一つ一つ蓄積していったとき、人はどんなところにいても“世界”を感じることが
できるようになるでしょう。

忘れられない瞬間を求めて、
彼はまた、新たなピンチへ旅をする。

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三島邦彦 13年2月23日放送


Susan NYC
登場人物たち 断食芸人(カフカ『断食芸人』)

カフカの名作、『断食芸人』の主人公は、
その名の通り断食をすることを生業にしている。
檻の中で、断食何日目という札をかかげて、
ただひたすらに時間の経過を待つ日々。

飲み食いをせずに生きる。
そのシンプルなエンターテイメントに、人々は驚く。
時間が経つほどに、誰かが陰で食事を与えているのではと疑う人が増える。
議論が高まるほど注目は集まり、見に来るお客の数が増える。

しかし、人は飽きる。残酷なほど突然に。
そしてみんなに飽きられ、忘れられた後も、断食芸人は食事をしなかった。

ある日、サーカスの団員が、檻の中にいる断食芸人を発見した。
彼はまだ生きていた。何も食べず、何も飲まずに。
発見した男は、なぜ断食をし続けるのかを聞いた。
断食芸人はこう答えた。

美味いと思う食べ物が見つからなかったからなんだ。
見つかってさえいればな、世間の注目なんぞ浴びることなく、
あんたやみんなみたいに、腹いっぱい食べて暮らしていただと思うけどね

みんなに飽きられて死んだ男、断食芸人。
彼もまた、世界に飽きていたのかもしれない。

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三島邦彦 13年2月23日放送



登場人物たち ウィリアム(ティム・オブライエン『ニュークリア・エイジ』)

男が穴を掘る。
自宅の庭に核シェルターを作るため。
家族からどんなに止められても、男は穴を掘りつづける。

男の名前はウィリアム。
アメリカの作家ティム・オブライエンが書いた小説
『ニュークリア・エイジ』の主人公。
幼い日に見たキューバ危機のニュースがきっかけで、
生涯核戦争を恐れて生きることになった。
ウィリアムは語る、

もし何かを想像することができるなら、それは存在しうるのだ。僕はあらためてそう思う。
でもこういうのを想像してみてほしい――核戦争を。

イメージは人生を支配する。
核兵器のない世界だって、想像できたはずなのに。

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