寒さの季節に 中村草田男
きんと澄み切った空気。
見上げれば輝く星。
昭和の俳人中村草田男(なかむらくさたお)は
そんな冬の夜の星を
寒い星と書いて寒星(かんせい)と詠んだ。
寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか
冷え切った夜。
きらめく星。
不変のリズムで動き続ける天体。
空を見上げ、立ちすくむ私。
人知を超えた
はるかな時間が、
寒々と広がっている。
寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか
寒さの季節に 中村草田男
きんと澄み切った空気。
見上げれば輝く星。
昭和の俳人中村草田男(なかむらくさたお)は
そんな冬の夜の星を
寒い星と書いて寒星(かんせい)と詠んだ。
寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか
冷え切った夜。
きらめく星。
不変のリズムで動き続ける天体。
空を見上げ、立ちすくむ私。
人知を超えた
はるかな時間が、
寒々と広がっている。
寒星(かんせい)や神の算盤(そろばん)ただひそか
whologwhy
よりよき世界の破片たち 橘曙覧
江戸時代に生きた歌人、
橘曙覧(たちばなのあけみ)。
短歌の伝統といえば、
花鳥風月を歌に詠むこと。
けれど橘曙覧は、
日々の何気ない「たのしみ」を歌にした。
たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
(たのしみは、妻と子が仲良く集まり、頭をならべてごはんを食べる時)
たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時
(たのしみは、朝起きて、昨日まで咲いてなかった花が咲いているのを見た時)
たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
(たのしみは、気がねない友だちと語り、笑いあって、お腹をよじるとき)
何百年もたって、インターネットにAIと
社会はずいぶん変化したけれど、
人が「いいなあ」と思う対象って、
そんなに変わらないのかもしれません。
DesEquiLIBROS
花ひらく グランマ・モーゼス
アメリカの国民的画家、グランマ・モーゼス。
「モーゼスおばあちゃん」と親しみをこめて愛されたこの画家は、
75歳にしてはじめて絵筆をとった。
貧しい農家に生まれ、働きづめの人生。
絵を描き始めた理由も、年老いてリウマチを患い
その「リハビリ」を兼ねてのことだったという。
「屋根つき橋」「冬景色」「散歩道」
彼女の絵には、日々の労働の中で目にした景色が、
生き生きと描かれている。
色のひとつひとつに、生き様が立ち現れるようだ。
晩年、どうやれば画家になれますか?
と質問されたモーゼスおばあちゃんは、
一言こう答えている。
「はじめればいいのよ」
sympathy
ひとりとひとり 宮本常一と渋沢敬三
旅する巨人と言われた民俗学者、宮本常一(みやもと つねいち)。
彼を偉大な民俗学者にしたのは、
才能と努力だけではなかった。
「パトロン」がいた。
渋沢敬三(しぶさわけいぞう)。
第16代日本銀行総裁。のちの大蔵大臣。
日本の辺境に残る文化をつぶさに記録した宮本を、導き、援助しつづけた。
渋沢は、日本の経済の中心にいながら、
つねに日本の「すみずみ」のことを考えていた。
その思いを、宮本常一に託したのかもしれない。
渋沢のこんな言葉が残っている。
舞台で主役をつとめていると、多くのものを見落としてしまう。
その見落とされたものの中にこそ大切なものがある。
それを見つけてゆくことだ。
人の喜びを自分が本当に喜べるようになることだ。
今夜はクリスマスイブ オーギー・レン
クリスマスになると、見たい映画がある。
たとえば、ウェイン・ワン監督による、1995年作の作品「スモーク」。
原作の小説の名前を
「オーギー・レンのクリスマスストーリー」という。
この物語の登場人物たちは
どうしようもない嘘をつく。
つくしかなくて、つく嘘たち。
主人公のオーギー・レンもまた、
かつて、ある人を嘘でだました経験をとつとつと語る。
それを聞いていた常連客は、その嘘についてこう答える。
本当にいいことをしたな。
人を幸せにした。
生きていることの価値だ。
さあ、今年のクリスマスは
世界中でどんな嘘がつかれるのだろう。
Stijn Vogels
ペンは動く デイビッド・オグルビー
広告の父と呼ばれる、デイビッド・オグルビー。
彼は、すばらしい広告をつくった人とほめられるより、
「売れる広告をつくった人」になることだけを望んだ。
オグルビーの広告づくりはデータに基づいていた。
写真の選び方、文章の配置、文字数まで。
すべてデータに基づいていた。
たとえば、こんなデータ。
白地に黒の文字の方が、黒地に白の文字より読まれる。
オグルビーの広告において、
黒地に白で書かれた文字はない。
Lombroso
そのとき聞こえた音楽 ラーメン屋でリスト
日本人の食に関する悲喜こもごもを
情緒豊かに描いた
伊丹十三の傑作「たんぽぽ」。
監督は、この映画のことを「ラーメン・ウエスタン」と
表現していたらしい。
ストーリーの軸は、
とある落ちぶれたラーメン屋の再建。
そして、ラーメン屋の復活を感動的に支えるのが、
日本にもラーメン屋にも食にも関係なく作られた、
フランツ・リストの「交響詩・前奏曲」だ。
ラーメン・ウエスタンなニッポンを際立たせる、ヨーロッパのクラシック。
いかにも伊丹十三らしい組み合わせだ。
Dallas1200am
そのとき聞こえた音楽 猿が人間になるときにシュトラウス
作曲家リヒャルト・シュトラウス。
彼は、1896年、ニーチェの著作にインスピレーションを受けて
交響詩を作曲した。
曲の名は「ツァラトゥストラはかく語りき」。
33分にも及ぶ壮大な交響詩は、
一世紀を経た今、世界中のだれもが知る曲となった。
ただし、曲の冒頭のみ。
発端は、映画「2001年宇宙の旅」。
人類の進化を描く鮮烈なシーンで、
このシュトラウスの曲は、高らかにその存在感を示した。
この映画のためだけに生まれたかのような曲だった。
音楽に生きる人 新庄清貴さんと小宮大輔さん
国と国の境で
国籍の壁をこえて、
みんなでいっしょに歌いたい。
そんなことを夢想した人たちがいる。
日本と韓国の国境ぞいの島、
対馬生まれの
新庄清貴(しんじょう・きよたか)さんと小宮大輔(こみや・だいすけ)さん。
夢は計画に変わり、計画は行動になった。
日本と韓国のアーティストも動き出した。
「対馬ボーダーアイランドフェスティバル」
新庄さんはこんな風に語ってくれた。
国境の島が、友好の架け橋になる。
困難はいっぱいあるけど、ぜんぶ越えられると思うんです。
国境の壁を越えようとする思いが、
人の気持ちの中にある
いろんな壁を乗り越えようとしている。
雨や植物や木のはなし 佐藤和歌子(さとう わかこ)
佐賀県神崎市(さがけん かんざきし)、脊振(せふり)。
空から山々を見ると、
龍が背中を振っているように見えるから「脊振」。
壮大な名前をもつこの山と森の里に、
NPO法人「森林(もり)をつくろう」は、ある。
昔の人々が植えた木々が
手入れされないと、山は荒れる。
森林(もり)を中心としたコミュニティも廃れる。
森林(もり)が廃れることは、国土の70%が力を失うこと。
それを、なんとかくいとめたい。
代表の、佐藤和歌子さんは言う。
森林(もり)に来て、木に触れてほしいんです。
森林(もり)は時代を超えて、人を幸せにする場所です。
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