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森由里佳 15年10月25日放送

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lee.chihwei
音楽と人 人生と音楽:久石譲

久石譲。
その名は多くの音楽とともに日本人の心の中にある。

世界中からのオファーで多忙な彼は、
意外にも、その日常はルーティンワークに占められるという。

 延々とルーティンワークを繰り返していれば、
 苦しくなって、逃げたくなるときはありますよ。
 それでも音楽を続けるのは、僕にとって「音楽」というのは、
 イコール「生きること」だからです。

 
人生が、一日一日を重ねていくように、
音楽もまた、一音一音を重ねて流れゆく。
 
楽譜通りに演奏しても全く同じ音楽にはならないように、
「おなじことを繰り返すだけの毎日」というのも、
本当はないのかもしれない。

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森由里佳 15年8月2日放送

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芥川千景
夏を感じる④ 風鈴職人 関根久雄

風たちの歌声のような「ちりんちりん」という音色は、
日本人のこころに涼を与えつづけてきた。

しかし、
静岡県三島市の風鈴職人、関根久雄は、
本当に感じてほしいのは音色ではないと言う。

彼が目指すのは、自己主張しすぎない音を持つ風鈴だ。

その理由をこう語る。

「風鈴が鳴って、感じて欲しいのは涼しさです。
風鈴が鳴ると、あ、風が吹いているなと感じてもらいたい。
音が大きすぎると、風鈴自体の主張が強くなりすぎて、
 (中略)涼しい風がイメージしにくくなってしまいます。」
 
理想の音色をさがすため、
関根は毎年、あくなき試行錯誤を繰り返す。

熱い職人魂が、
涼しい夏をはこんできます。

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森由里佳 15年8月2日放送

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guyjasper
夏を感じる⑤ 花火師 青木昭夫

花火は、美しい。
しかし、本当に美しい花火とは何か、ご存じだろうか。

日本で最も美しい花火を作ると言われる花火師
青木昭夫さんによると、こうだ。

「花火には火薬粒が約3000個詰め込まれている。
その1粒が1ミリでもずれたら、
そのずれは大空で何千倍にも拡大されて、
花開いた時にどこから見ても球形に見える花火にはならない。
細部にまでこだわる緻密なモノづくりの精神がなければ、
到達できない花火だね」

どこから見ても球形に見える花火。
そこには、芸術としての美しさはもちろん、
花火を楽しみにしている全ての人への思いがつめこまれている。

一瞬のために1ミリの妥協も許さない職人魂は、
日本のモノづくりの未来にも、大輪を咲かせるに違いない。

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森由里佳 15年8月2日放送

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夏を感じる⑥ 江戸扇子職人 松井宏

京扇子のようなきらびやかさはなく、
キリっと粋な江戸扇子。
骨が少ないからこそ生みだせる強い風に感じるのは、
美しくも頑固な職人芸だ。

平安時代には、貴族の身分をあらわすシンボルでもあった扇子。
今となっては、誰でも簡単に手に入れることができるが、
伝統を守り続けてきた男には、思うことがあった。

無形文化財技術保持者の江戸扇子職人、松井宏だ。

 お宮参りに始まり、七五三、成人式、結婚式、還暦、古稀、葬式…
 扇子と日本人のつながりは一生続くのです。
 だから、扇子は持つ人の人格を象徴するもの。
 少々値段が高くても、本物を使ってほしい。

職人魂が光る江戸扇子。
そこから生まれる風たちはきっと、
持つ人の人生も、乗せてゆく。

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森由里佳 15年7月19日放送

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こども④ ボーイスカウトとこどもの国

世界中のボーイスカウトに共通する、
三指の礼。
 
第二次大戦中、
傷ついた米兵と、彼を見つけた日本兵との間に生まれた、
こんなエピソードがある。
 
君を刺そうとした時、君はぼくに三指の礼をした。
ぼくもボーイスカウトだった。
ボーイスカウトは兄弟だ。君もぼくも兄弟だ。
それに戦闘力を失ったものを殺すことは許されない。
傷には包帯をしておいたよ。グッドラック。
 
スカウト精神の結晶ともいえる
このエピソードの記念碑がたてられたのは、
横浜市にある「こどもの国」。
 
戦時中の美談が刻まれた「こどもの国」は、当時、
旧日本軍最大の弾薬製造貯蔵施設だったという。

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森由里佳 15年7月19日放送

150719-05
qooh
こども⑤ レオ・レオニと「スイミー」

小さな黒い魚、スイミーは、
大きな魚を恐れる、赤い魚たちにこう言った。
 
「みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
(中略)
みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、
スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」
朝のつめたい水の中を、ひるのかがやく光の中を、
みんなはおよぎ、大きな魚をおい出した。
 
レオ・レオニの絵本「スイミー」。
 
力をあわせて勇気を出せば、どんなことだってできる。
 
この絵本から、そんなことを感じた子供たちは多いだろう。
 
しかし、実はこの作品には、
もうひとつのメッセージが込められている。
それは、
 
「ぼくが、目になろう。」
 
芸術家として、周りの人に見えないものを見ようとしたレオと、
小さなスイミーの姿が、ゆらりと重なる。

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森由里佳 15年7月19日放送

150719-06
r.nial.bradshaw
こども⑥ 「はろるどとまほうのくれよん」

「あるばん、ハロルドはふっとつきよのさんぽがしたくなった」
 
クロケット・ジョンソンの絵本
「はろるどとまほうのくれよん」は、こうしてはじまる。
 
描いたものは何でも本物になるという、
むらさき色のまほうのくれよん。
 
そのくれよんを拾ったはろるどは、
白い壁にさまざまなものを描いて、大冒険をはじめる。
自分で描いた道を通り、ふねで海を渡り、
おなかがすけばパイを描いて食べもした。
 
まほうのくれよんと想像力を使って、
さまざまなピンチを乗り越えていくはろるどの姿に、
世界中のこどもたちが夢中になった。
 
はろるどがつくりだした、
めくるめくむらさき色の世界は、
こどもたちの想像力をカラフルに色づかせたに違いない。

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森由里佳 15年6月21日放送

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JulGlouton
太陽④ いのちを燃やす

醜い容姿に生まれたよだかは、
その運命を嘆き、輝く太陽にこう願った。
 
 お日さん、お日さん。
 どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。
 灼けて死んでもかまいません。
 私のようなみにくいからだでも
 灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。

 
宮沢賢治作「よだかの星」の一説だ。
 
悲しみから逃げるように飛び続けたよだかは、
やがて青白く燃える星になる。
 
みじめな運命に苛まれ、
虫たちの命を食べるのをやめて死を選んだよだか。
裕福な出自に苛まれ、
家を飛び出し貧民のために生涯をかけた宮沢賢治。
 
どちらのいのちも
夜空の星のように尊く、儚く、
太陽のように熱く、輝かしい。

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森由里佳 15年6月21日放送

150621-05
Christopher Combe Photography
太陽⑤ ひかりに酔う

宮沢賢治は“共感覚”の持ち主だという研究がある。
文字に色を感じたり、現象に味を感じたりする人だというのだ。
 
彼が感じていた世界を味わうには、彼の作品を読むことだ。
たとえば「チュウリップの幻術」。
 
 あの花の盃の中からぎらぎら光ってすきとおる蒸気が
 丁度水へ砂糖を溶かしたときのように
 ユラユラユラユラ空へ昇って行くでしょう。
 (中略)
 そして、そら、光が湧いているでしょう。
 おお、湧きあがる、湧きあがる、
 花の盃をあふれてひろがり
 湧きあがりひろがりひろがり
 もう青ぞらも光の波なみで一ぱいです。
 (中略)
 湧きます、湧きます。ふう、チュウリップの光の酒。
 どうです。チュウリップの光の酒。

 
花からあふれるその酒はきっと、
太陽の味がしたにちがいない。

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森由里佳 15年6月21日放送

150621-06
dcysurfer / Dave Young
太陽⑥ 輝きを失わない

光のパイプオルガン。
 
雲の切れ間から太陽の光が漏れて、
光の柱のように見える光景を、
宮沢賢治はそう呼んだ。
 
そして、いずれ農家を継ぐため
音楽の道を諦めねばならない生徒に、
こう語りかけている。
 
 もしも楽器がなかったら
 いゝかおまへはおれの弟子なのだ
 ちからのかぎり
 そらいっぱいの
 光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ

 
この「告別」という詩は、
教師をやめて新たな一歩を踏みだす
賢治自身への言葉でもあるといわれている。

人は、逃れられない宿命の中で生きていく。
でも、絶望してはいけない。
自分の才能を捨ててはいけない。
どんな時も前を向くことが大切なのだ。
決して輝きを失わない、太陽のように。 

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