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森由里佳 15年5月17日放送

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海④ 海の新しい魅力:クラーク・リトル

あれは、海がアートになる瞬間なんだ。

サーファー出身のハワイの写真家、
クラーク・リトルは撮影を振り返ってそう言った。

ショアブレイクと呼ばれる
岸辺で一気に崩れる危険な波の中に入り、
チューブの内側の世界を撮影する。
波をよく知るサーファーならではのスタイルだ。

荒々しい波から、
ガラス芸術と見紛うほどの美しさを引きだす彼の作風は、
ナショナル・ジオグラフィックをはじめとした多くのメディアで脚光を浴びた。

誰もが知っている海の、
誰も知らなかった美しい世界。

クラークの作品は、
海のあたらしい魅力を煌々と写し出す。

もうすぐ夏。
今年は、アートな瞬間を見つけるために、
海へ行ってみませんか。

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森由里佳 15年5月17日放送

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海⑤ 現代に生まれた人魚姫:二木あい

 今までの水中写真には、面白さがない。

そう話すのは、二木あい。
自らを「水中表現家」と名のり、
素潜りでは世界トップの実力をもつ女性だ。

彼女は続ける。

 全部「人間の目線」
 つまり観察的に撮られたものだからじゃないかな

そんな彼女の作品と、
他のダイバーたちの作品が
決定的に違うこと。

それは、いきものとの距離だ。

素潜りという武器をもつ彼女は、
驚くほど近く、信じられないほど自然に、いきものと泳ぐ。

魚たちと同じ目線にたち、
その中にとけこもうとすれば、彼らからじゃれてくるのだという。

水中世界と人間世界を繋ぐ架け橋になりたい。
そう願う彼女が泳ぐ姿は、まるで人魚姫のように美しい。

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森由里佳 15年5月17日放送

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Scuba Catalog
海⑥ 海を守るアート:ジェイソン・デカイレス・テイラー

メキシコ、カンクンの海の底に、
彫刻美術館があるのをご存じだろうか。

作者は、イギリス人芸術家、
ジェイソン・デカイレス・テイラー。

海底展示も珍しいが、
彼の作品がユニークな理由は別にある。

通常、芸術作品は、
完成形を保つために保護されているもの。
しかし彼の作品は海底に放置され、
珊瑚や藻に覆われて原型のわからないものすらある。

それは、
あえて、海の生き物が発育しやすい素材を使っているから。
彫刻が時を経て人工漁礁となり、
生き物の暮らしが営まれるという作品なのだ。

テイラーは、
海洋環境保護活動にアートを融合し、
世界中の人たちの関心を新たにさせた。

海を守るアートは、
海を大切にしようとする心も守っている。

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森由里佳 15年4月12日放送

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KYR
花とことば④ 日本と椿

花言葉は、世界共通ではない。
国ごとに、ニュアンスや意味が変わってくる。

はからずも、お国柄がよく表れた花がある。

端正な咲き姿から、
日本のバラともいわれる椿。

「木」に「春」と書いてツバキと読むその花は、
まさしく春の季語としても古くから親しまれている。

そんな椿の西洋での花言葉は、
「敬愛」「完全」「完璧」。

いっぽう、日本では、
「控え目な優しさ」「誇り」。

香り高い花が多く咲く春に、
つよい香りを放つことなく、静かに咲く椿。
きちんと整列したその花弁は、幾何学美すら感じさせる。

日本のこころは、
この地に咲く花々にも根付いているのかもしれない。

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森由里佳 15年4月12日放送

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花とことば⑤ うたと桜

 散る桜 残る桜も 散る桜

 ねがはくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ

和歌や俳句など、桜を謡った古いうたには、
さびしさや切なさを募らせたものが多い。

しかし現在では、桜といえば、
明るいうたが多くなってきた。

美しい花が散ることへの嘆き、いつくしみから、
つぼみが花ひらくことへの喜び、あこがれへ。

あたたかい春に
やっと咲いては散りゆくものだった桜は、
きびしい冬を超えて
みずみずしく咲き誇るものになった。

うたは、時代を謡うのだ。
だから、もし暗い夜が来ても、大丈夫。
いまの日本には、花あかりが灯っている。

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森由里佳 15年4月12日放送

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花とことば⑥ 酒と牡丹

土佐の銘酒「司牡丹」。
この酒が牡丹の名を冠した理由は、
土佐出身の維新の志士、田中光顕が寄せた
賛辞の言葉にある。
 
「天下の芳醇なり、今後は酒の王たるべし」
 
幾重にもつらなる花弁をひろげ、
堂々と鎮座する姿から、
花の王という異名も持つ牡丹。
その名は王と呼ぶべき酒にふさわしい名だった。

華やかな美しさだけでなく、
強く、堂々とした佇まいも兼ね備える牡丹の花。

まもなく、春牡丹は見頃を迎える。

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森由里佳 15年3月29日放送

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Ars Electronica
ロボット④ ロボットと感情

もし、ロボットに感情があったら。
主人である人間に嫌悪を抱き、反乱を起こすのではないか。

そんな不安が、多くの文学や映像作品で描かれてきた。

しかし、
アンドロイド研究の第一人者である石黒浩教授は、
あっさりとこう答える。

 人を傷つけるかどうかは、人とアンドロイドの関係次第です。
 人がアンドロイドを受け入れ、共存することを望むなら、
 多少傷つけられても
 一緒にいたいと思える関係を築けるようになると思います。

人間だろうが、アンドロイドだろうが、
一緒にいたい相手をたいせつにすること。
 
そんな当たり前のことを忘れて不安がることには、
なんの意味もない。

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森由里佳 15年3月29日放送

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wintersweet
ロボット⑤ ロボットと人間

ロボットは、壊れやすい。

それは、工業製品としては大きな欠陥である。
丈夫で優秀なロボットを作ろうと、もがく研究者もいる中で、
これを面白がる人がいる。

デザイナー 山中俊治。
彼は語る。

 すぐに壊れてしまう、死んでしまう。
 生物においてそれは当たり前の特性。
 そういう人工物を、予測不可能性を抱えた物を、手に負えない物を、
 ようやく作れるようになったのだと思う。
 その魅力を追求すべきだ。

 
ロボットの壊れやすさ。山中は、欠陥とされるそれに
生きものらしさと愛おしい魅力を感じた。
それが彼を惹きつけた。
 
欠点を魅力だと思えた時、人は夢中になるのかもしれない。

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森由里佳 15年3月29日放送

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ロボット⑥ ロボットと労働

ロボティクスの進歩は、将来、人間の仕事を奪うのだろうか。
 
日本を代表するロボティクスベンチャーで活躍する松尾幾代は、
そんな通説を気持ちよく覆してくれそうだ。
 
彼女が開発を一手に担うのは、パワーローダー。
人が身に着けることで、人の何倍もの力を出すパワードスーツだ。

肉体労働の現場で働く男性をサポートするのが目的かと思いきや、
彼女が目指すのは、使い手を選ばないユニバーサルなものだという。
 
 初めは、男性が使うことになるでしょう。
 でもいずれは、そういった職場へ女性が進出するきっかけにしたい。

 
人間の仕事を奪うどころか、女性が活躍できる新たな可能性も拓く。
松尾幾代のロボティクスは、そんな未来を見せてくれる。

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森由里佳 15年2月22日放送

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猫と人④歌川国芳「おぼろ月猫の盛」

幕末を代表する浮世絵師、歌川国芳。

権威を嫌い、羽織・袴などを身につけず、
人から「先生」と呼ばれるのも嫌がる生粋の江戸っ子だった。

遊女の絵が禁じられた頃、
国芳が描いた遊郭の絵がある。

座敷の奥の遊女を覗く楽しそうな遊客たち。
羽織の紋はウナギや魚。着物の模様は小判や鈴。
提灯に書かれた店の名は「やまとや」ならぬ「にゃまとや」。

そう、国芳は、遊女も遊客も「猫」の遊郭を描いたのだ。

権威がなんだってんだ、とでも言うように、
国芳の絵は、時代のしがらみをすりぬける。

まるで、江戸の小路をするりと抜けゆく猫のように。

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