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森由里佳 15年2月22日放送

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猫と人⑤T.Sエリオット「CATS」 

猫とうまくやるのは、難しい事だろうか? 

T.Sエリオット。
猫好きの詩人は、猫の目線でこう答える。 

 我々の性格を理解するのに解説はいらない。
 猫はあなた方にとても似ている。
 信頼できる友と思われるには、
 帽子を取り、おじぎをしよう。
 猫にも威厳を求める資格があるのだ。
 ちょっとした尊敬の証もいる。
 たとえば、一皿のクリーム。
 時折、キャビアやストラスブールパイなんかもいい。
 そのうち目的は達成される。
 そうしたら呼びかけてごらん。猫の名を。  

猫と付き合うのは、手がかかる。
とはいえ、簡単にすり寄られては、調子が狂う。
そんなところもまた、私たちとよく似ている。

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森由里佳 15年2月22日放送

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猫と人⑥ルイス・キャロル「チェシャ猫」 

ルイス・キャロルの名作、
『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫は、
でたらめばかり言う気ままな猫。 

アリスが道を尋ねても、
口元に不敵な三日月を浮かべてこう笑う。

 どっちへ行けばいいかだって?
 それは、あんたがどっちへ行きたいかさ。
 それがないなら、道を聞くことはないわけだ。
 どっちへ行っても同じこと。

その言葉にアリスは面食らう。

進むべき道を人に尋ねても、意味はない。
答えは、自分の中にしかないのだ。

でたらめな猫の言葉を通して、
ルイスが真理を教えてくれる。

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森由里佳 15年1月11日放送

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よっちん
片思い④樋口一葉

恋は、美しいか?
樋口一葉は、
師である半井桃水への想いを綴った歌でこれを否定する。

 みぐるしく、にくく、うくつらく、浅ましく、
 かなしく、さびしく、恨めしき、厭う恋こそ、恋の奥なりけれ

見苦しく、悲しい「厭う恋」こそが、恋である。

まだまだ女性に対して閉鎖的だった時代に、
女性作家の文壇への道をひらいた一葉。
しかし、半井桃水への想いが通じることは、ついぞなかった。

「厭う恋」を厭いながらもその恋を抱え、
恋にも時代にも屈せず筆を握り続けた彼女の姿は、孤高ゆえに、美しい。

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森由里佳 15年1月11日放送

150111-06

片思い⑥藤原義孝

平安時代の歌の名手、藤原義孝。
稀代の美男子としても呼び声が高かったにも関わらず、
はやり病に倒れ、21歳の若さで亡くなってしまう。

 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

君が僕の事を想ってくれるなら、
この命だって惜しくないと思っていた。
でも、いざ、君が想ってくれていると知ったら、
少しでも永く、この幸せの中で生きたいと想うようになったんだよ。

愛は、その人のために生きることを望ませるが、
恋は、その人のためなら死さえ選ばせる。
片想いは、いつの時代も必死なのだ。

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森由里佳 15年1月11日放送

150111-05

片思い⑤小野小町

六歌仙として名を連ねる歌人、小野小町。
平安の才女が恋多き女性であったことは、
彼女が詠んだ歌からも伺える。

 思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ
 夢と知りせば 覚めざらましを

あの人のことを想いながら寝たから、
夢に彼が出てきたのだろうか。
もしも、夢だとわかっていたなら、
目を覚まさなかったのに。

片想いも、夢も、
さめたらそこで終わってしまう。
「夢中になる」とはよく言ったものだ。

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森由里佳 14年12月7日放送

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贈り物④ ティファニー・ボウ

まっ白なサテンリボンがむすばれた、
スカイブルーの小さな箱。
女性なら誰もがときめく贈り物だ。

ティファニーの創設者、
チャールズ・ルイス・ティファニーには、
あるこだわりがあった。

それは、リボンの結び方。

女性が少し引っぱるだけで、
小箱の上で白いリボンが美しくほどけていく。

そのなめらかなさまは、
女性たちの胸の高鳴りを加速させる。

それは、
彼女たちが輝くジュエリーを目にするまでの
ほんの小さな演出に過ぎないけれど、
リボンがするりとほどけるその瞬間、
女性たちのこころもまた、
贈り主のこころの中へとほどけていくのだ。

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森由里佳 14年12月7日放送

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贈り物⑤ 井上ひさし

井上ひさしの戯曲は、
社会や人間への不満・疑問を投げかける中で、
必ず、笑いを含んでいる。
その理由の一つに、こんなことがある。

 人間の愚かさが誰かに注意されて改まるならば、
 悲しみや怒りではなく、
 笑いによって注意を下されるべきではないだろうか。

耳を塞がれがちな意見や不満を、
笑いという「贈り物」に変える。
そうすれば、心ない観客が見ても、
それはきちんと楽しまれる。

一方で、心ある観客には宿題を残すのが井上戯曲。
それは、「あなたはどうだ?」という問いだ。
その問いが放つ心の波紋こそが、
井上からの最高の贈り物だといえるだろう。

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森由里佳 14年12月7日放送

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贈り物⑥ わすれられないおくりもの

 アナグマは、死ぬことを恐れていません。
 死んで、からだがなくなっても、
 心は残ることを、知っていたからです。

スーザン・バーレイの絵本
「わすれられないおくりもの」の一節だ。

ゆっくりと眠る様に亡くなったアナグマは、
友人たちに、宝物となるような知恵や工夫を遺していた。
それは、彼らにとって、
大好きなアナグマからの「わすれられないおくりもの」だった。

しかし、アナグマが遺したいちばんの「わすれられないおくりもの」は、
「死んで、からだがなくなっても、心は残る。」
という、幼い読者とその親へのメッセージかもしれない。

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森由里佳 14年11月9日放送

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風呂④ 日本初の女性銭湯絵師

日本に3人しかいない銭湯絵師の中で、
唯一の女性、田中みずき。

ある銭湯で富士山の絵を描き終わった彼女は、
オーナーから絵にサインするよう促される。

しかし、彼女は躊躇した。

「描きたいから描くのではなく、
 銭湯の個性につながる空間を作るお手伝いとして描いています。
 最終的には見ている人の絵になってほしいので、
 自分の絵だとは思っていません。」

個性を出すのではなく、
求められるものに応えたいという職人魂。

日本人のこころを癒しているのは、
熱い湯けむりだけではないようだ。

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森由里佳 14年11月9日放送

141109-05
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風呂⑤ 女将のご褒美

新潟の温泉旅館で育ち、
異国の島で温泉宿を経営する女将、荻野多賀子。

ニュージーランドのマルイアスプリングスという温泉で、
24年間もの間、客人をもてなしている。

日本とは環境も道具も異なるため、
ちょっとした作業も戦いだ。

しかし、荻野さんに言わせれば、それが
「生きている!って感じ」なのだという。

そんな彼女の楽しみの一つが、
露天風呂の掃除の後、お湯の確認のために入浴すること。
お客様がいないときだけ楽しめる、贅沢なご褒美だ。

異国の地であっても、戦う日本人を癒すのは、
やっぱり、いい湯なのだ。

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