渚にて。
子犬に激しく吠えられて、ビックリして目が覚めた。
一緒に午睡をしていた彼女も悲鳴をあげた。
牧羊犬のボーダーコリーだ。
羊に吠えるように、僕らにまとわりつく。
誰のペットなんだよ。
地元の人が多いこの小さなビーチは、
昨日、都会から来た僕らに、冷たかった。
話しかけても誰も答えてくれない。
時々目が合って、愛想良く微笑んでも
すぐかわされた。
のどが乾いて
「すみません、ビールください」って、海の家でお願いしても
「なめんなよ!」って叫んでも。
全員に無視された。
ぼくらは、孤独だった。
閉鎖的なビーチ。
だから
僕は彼女とふたりで、
海で遊ぶしかなかった。
彼女は、泳ぎが得意ではなく、むしろ金槌だった。
水を怖がって、海には入ろうとしなかった。
それを無理矢理ゴムボートに乗せて沖に引っ張って行き
キャーキャー騒ぐ彼女と笑いあった。
ビーチのみんなに冷たくされても、
けっこう楽しかった。
それはビーチに戻ってきて
雲に隠れていた
太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。
(女性)「ここからふたつのエンディングをお楽しみください。
まず、エンディング/タイプAをどうぞ」
太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。
僕の彼女に影がないことに気がついたのは。
え、どういうこと?
そして、僕にも影はなかった。
体を動かしたり、手を振っても
影はない、てか、できなかった。
その瞬間すべてが瓦解し、すべてが理解できた。
思いだした。
昨日、僕と彼女はこのビーチで
彼女を沖につれだしたとき溺れ、
それを助けようとした僕も溺れたんだ。
ライフガードにビーチまで上げてもらったけど。
人工呼吸をしてくれたんだけれど。
だめだった。
僕と彼女は、死んだ。
ビーチのみんなが冷たかったのではない。
みんなに、僕らは見えなかった。
犬だけが、僕らのに気づいたんだ。
ぼくらの「存在」を知っているのは、キミだけだったんだね。
ありがとう。
(女性)「次のエンディング/タイプBをお楽しみください。」
太陽の強烈な陽射しが戻ってきた時のことだった。
影があるのは、僕と彼女だけ。
そのほかこのビーチにいる全員に影がないことに気がついた
あのおじさんも、あのビキニの娘にも、この小さな子にも。
そこは、死の国だったんだ。
死者たちの海水浴。
犬は、この死のビーチの番犬。
こう吠えていたんだ。
「こっちに来ては行けない。出て行け!」
*番組の音声はこちらでお聴きいただけます
http://www.01-radio.com/tcs/archives/12468