「ノダアカネ」
夢の中に出て来た女の子の名前は、
夢の中でもすぐに思い出した。
ノダアカネ。
転校生だったノダアカネは、
目がぎょろっとしていて背も大きくて、
ポニーテールにまとめた髪の毛もちょっとくるくるしていて、
小学校4年生にしてはあまりに大人びていた。
いわゆる転校生っぽい遠慮はどこにもなくて、
誰にでも話しかけて、関西弁が妙にまたおもしろそうに聞こえて、
彼女のまわりにはいつも人垣ができていた。
勉強も運動もそこそこできたし、
男子とも物怖じせずに戯れていた。
そして近所のスーパーには絶対売ってないような、
ひらひらとした丈の短いスカートをいつもはいていた。
たしか私はノダアカネが気に入らなかった。
下品で失礼な人だと決めつけていたし、
へんに馴れ馴れしいのも気に入らなかった。
正確には、苦手だったんだと思う。
ある時、ノダアカネがとても困った顔をして
私に話しかけてきたことがあった。
「ナプキンとか持ってないよね」
ひょろひょろして男の子みたいな体つきをした私には、
一瞬何のことだかわからなくて、びくっとした。
考えてみればノダアカネは、体も大きかったから、
そういうことが始まっていても、ちっともおかしくはなかった。
そういえば、少し前にそういう授業を保健の先生から受けた時に、
全員に一つずつ渡されていたものが
まだロッカーにしまってあったことを思い出した。
そうか、ノダアカネはまだその時いなかったんだ。
でも私はそのことをノダアカネに言わなかった。
「ごめん、持ってない」と嘘をついた。
なぜそんな嘘をついたのか、自分でもわからない。
ノダアカネは、一瞬困った顔をして、
でもすぐに「ありがと」と笑顔になって教室を出て行った。
その日一日、私はノダアカネの丈の短いスカートが、
真っ赤に染まってしまわないか、ドキドキしながら見ていた。
夢の中のノダアカネは、その時と同じ困った顔をしていた。
でも、すぐにやっぱり笑顔になって、
どこか遠くへ行ってしまった。
目が覚めるとお腹に特有のだるさが広がっていて、
トイレに行ったら案の定、生理が始まっていた。
ノダアカネは、今ごろ何をしてるんだろう。
トイレットペーパーに広がる茜色のものを見ながら、
今でも丈の短いスカートをはいてるといいな、と思った。