「桜の季節のとある話」
王様は困惑していた。
王様には生き別れた双子の弟がいる。
皇太后、つまりは、自分の母親が、
死ぬ間際に王様を一人、部屋に招き入れ、
泣きながらそう告白した。
この国の古くからの言い伝えで、
双子はその家に災厄をもたらすもの、
特に王族でそれは禁忌に近く、
双子は生まれた瞬間に片方だけ野に放り出されるのが常だった。
母親はそれがどうしてもどうしても嫌で、
出産の狂乱状態の中で乳母たちに懇願し、
極秘で母親の郷里近くの村の老夫婦に引き取ってもらったという。
王様はその弟の行方を調べに調べさせ、
ようやくその居場所を突き止めた家来の報告をいま聞いている。
「我が弟はどこにいる」
「は。はるか遠く東の果ての小さな島国におられます」
「かわいそうに。して、その地で何をしておる」
「ユーチューバーになっています」
「え?今何って言ったの?」
「ユーチューバーです」
「チューバ?楽団員か?」
「いやユーチューブに動画をあげてPVでお金を稼ぐ人たちです」
「全然わかんないんだけど、それは素敵な仕事なの?」
「はい、若者を中心にとても人気があります。見てみますか?」
「うん」
王様は家来が開いたパソコンをじっと見ていた。
「っていうか、そもそもこの銀のまな板みたいなものは何?」
「これは説明しだすと長くなるので後で」
そこでは、桜の木の枝を頭につけた裸のおじさんが、
炭酸を一気飲みして鼻から吐いたり、
はちみつを全身に塗って蜂の巣に突進したりしていた。
「こんな拷問のようなことが金になるのか?」
「はい。少なくとも我が国の国家予算は軽く超えるほど稼いでいます」
「えー」
「しかもアカウント名がですね」
「え、何?」
「要は名前がですね、”キングスブラザー”っていうんです」
「どういうこと?」
「つまり、この弟さんは自分が王様の弟であるということを知ってるんです」
王様は困惑した。
王様の描いていたシナリオは、
異国の地で頼るべき身寄りもなく辛酸をなめているであろう弟を、
ある日突然迎えに行き「弟よ」とこの手に抱きしめ、
何も知らずに驚く弟を国に連れて帰り、
王族として盛大に迎え入れるというもので、
なんなら相応の婚姻も用意しようと思っていた。
「結婚はしているの?」
「えぇ、インスタグラマーと結婚しています」
「え?何?」
「一応ネット上でメッセージを送ってみたんですけど
”元気にしてるんで、構わないでください。
それよりそっちもがんばってチョリス”って」
王様はもはや聞き返す気力もなかった。
出演者情報:藤谷みき http://ameblo.jp/knockonwood/