ちあきなおみ
いつものように幕が開き
恋の歌うたう私に 届いた報せは
黒いふちどりがありました
ちあきなおみは「喝采」という曲で、
恋人を亡くしてもなお、
ステージに立ち続ける女の悲しみを歌い、
文字通り喝采を浴びた。
しかし20年後。
最愛の夫を亡くした時、彼女は歌うことをやめた。
現実は歌よりもはるかに悲しいものだったから。
歌は残酷だ。
それでも世界は、
歌を必要としている。
内田百閒
さわら刺身 生姜醤油
たい刺身
かじき刺身
まぐろ 霜降りとろノぶつ切
ふな刺身 芥子味噌
内田百閒の随筆の中に、
料理の名前だけを延々78品、
書き連ねたものがある。
戦時中食べるものが少なくなり、
せめて名前だけでもうまいものを、と百閒。
言葉は、
ごちそう。
ついでにビールも、
もらいますか。
土方歳三
新撰組、土方歳三。
鬼の副長と呼ばれた、
彼の趣味は俳句だった。
昨日敵を斬り、今日味方を斬る。
明日生きているのかさえもわからない極限の毎日の中で、
人としての均衡を保つ、
たった一つの糸。
それが俳句だった。
公用に 出て行く道や 春の月
5月生まれの土方は、
春の句が好きだったという。
フランシス・コッポラ
仕事と家族、どっちが大事なの
そう妻に言われて困ったら、
フランシス・コッポラを思い出そう。
映画「ゴッドファーザー」で彼は、
父を音楽監督にし、妹に大役を与え、
娘にヒロインの座をプレゼントした。
仕事と家族、
ではなく、
仕事が家族。
公私混同、
おおいに結構。
コッポラは、よくわかっている。
小林一茶
小林一茶が初めて結婚したのは、
52歳のとき。
相手は24歳年下。
若い妻、新婚。
それはそれは、毎夜、
せっせと営みを重ねます。
しかしさすがの一茶も、寄る年波には勝てず。
自分を奮い立たせるためにひねり出したのが、
かの有名な一句。
やせがえる 負けるな一茶 これにあり
200年後の小学生が
無邪気にそらんじる様子を見たら、
一茶はひっくり返るに違いない。
志賀直哉
原節子を小津安二郎に薦めたのは、
作家、志賀直哉であった。
尊敬する志賀の一言で、小津は、
次回作「晩春」のヒロインに彼女を迎え、
そこから、
日本映画史上最も重要なコンビが生まれる。
これもまた、
作家、志賀直哉の
ひとつの作品である。
友部正人
誰かにたとえられるということは、
時として名誉であり、
時として重荷でもある。
日本のボブディランと言われた、
友部正人。
彼はそんな肩書きを
むしろ楽しむかのように
軽やかに歌い続ける。
ボブディランなんて知らない。
知っているのは音楽好きの若いアメリカ人
ぼくはその若さだけ信じてた
名誉か重荷かは、
本人が決めること。
答えは風に吹かれている
ディランもそう言っている。