ロナルド・レーガン
ロナルド・レーガンのように
生きていけたら、と、思う。
でも、それは、
大統領になってみたいとか
講演先のホテルの前で
暗殺されかけたいとかいう話では、
もちろんなくて。
ただ、
心臓をかすめた
22口径の弾丸が
まだ胸の中にあるようなときでも
手術を執刀する医師たちにむかって
キミたちがみんな、共和党員であることを願うよ
なんて言って笑った
あの日のロナルド・レーガンのように。
やさしく、つよく、生きていけたら、と、思う。
イマヌエル・カント
平凡な男がいて、
平凡な日常があった。
5時起床。
紅茶を2杯飲み、
タバコを吸う。
7時から9時まで仕事。
昼まで執筆。
午後1時から
3時間の昼食。
食事はこの1度きり。
そして、散歩へ。
グレーのマントに
籐のステッキで、
菩提樹の並木道を4往復。
帰宅後は読書と執筆。
そのまま10時に就寝。
いつもどおりの寝間着で、
いつもどおりの鼻呼吸で、
いつもどおりの室温14度で。
哲学者、
イマヌエル・カントの日常は
そんな毎日のくり返しだった。
非凡な発想は、
平凡な日々の中で生まれた。
ジェイムズ・ボズウェル
ユーモアはタダだ。
ユーモアはCO2を出さない。
人類が、ユーモアという素敵な装置を
発明したおかげで、
世界は以前より幾分か平和になった。
1755年。
世界ではじめての英語辞典に、
サミュエル・ジョンソンは
こんな記述をした。
カラスムギ:
穀物の一種であり、
イングランドでは馬のエサ。
スコットランドでは人の主食となる
彼は根っからのスコットランド人嫌いだった。
これを見た
ジョンソンの弟子、
スコットランド人のジェイムズ・ボズウェルは
すかさず反論した。
カラスムギ:
穀物の一種であり、
イングランドでは馬のエサ。
スコットランドでは人の主食となる。
ゆえに、イングランドは馬が優秀で、
スコットランドは人が優れている
ユーモアに勝る武器は、ない。きっと。
鳥山明
“娯楽”という
言葉の意味を問われたら、
鳥山明の言葉を返そう。
彼は、
ドラゴンボールという
作品について
こう語った。
何かがピューッて、
もの凄いスピードで走って来て、
何かに当たってパーンとはじけ飛ぶ、といった動きね。
そして、次はいったいどうなるんだろうか、って、
どんどんページをめくっていって、読み終わったら、
ワッハッハって、元気に外へ遊びに
飛び出して行けるような作品をね、
ぼくたちも作ってみたいなあと考えたんです
That’s entertainment.
フレッド・アステア
物語はいつも
想像の、
少し外側から
やってくる。
110年前の今日、
ネブラスカ州に生まれた
ひとりのダンサー。
彼は33才のときに、
ハリウッドのスタジオで
オーディションを受けた。
けれども、結果はさんざんで。
ディレクターのメモには、
こう書かれていたという。
唄はダメ。演技もダメ。髪は薄く、ダンスはまあまあ
そんなダンサーが
まさか20世紀を代表する
映画スターになるなんてこと、
そのときは誰も、想像していなかっただろう。
おそらくは、本人も。
偉大なる名優、
フレッド・アステアの物語は、
こうしてはじまった。
濱田庄司
ひょい、ひょい
と、こきみよく
大皿の上でひしゃくが踊り
釉薬が生き生きとした
流れを描きだしてゆく。
ほんの15秒ほどで
またひとつ、
あらたな名作が生まれた。
陶芸家、濱田庄司の
そんな仕事ぶりを見て
ひとは言う。
ひとつの作品に、
たった15秒しか
かけないなんて
物足りなくないのか
と。
けれども彼は、
首をふった。
15秒ではなく、
15秒と60年ですよ
そしてひとは、
極めることの
意味と、尊さを知る。
シド・ヴィシャス
英雄と呼ぶには、
粗暴で。
カリスマと呼ぶには
不安定過ぎて。
結局、
彼を上手に褒める言葉を
見つけられないまま
サヨナラを言うハメに
なった僕たちだけど。
生きていれば
今日、52歳になるはずだった
シド・ヴィシャスの歌う“My Way“は、
あいかわらずヘタクソで、
あいかわらずイカしている。
パーシヴァル・ローウェル
1895年。
宇宙にちょっとした
事件がおこった。
パーシヴァル・ローウェルという名の
アマチュア天文学者が出版した一冊の本。
その中で彼は、
火星には無数の運河があること。
その運河は知的生命の存在を
裏付けるものだという説を発表した。
赤茶けたその惑星は、
いちやく“スター”になった。
その後100年かけて
人類は、
火星に運河なんてないこと、
火星人なんていないことを
一つひとつ
おお真面目に証明していったけれど。
いまだに火星は、
木星や金星や
何なら太陽なんかも押しのけて。
僕たちの宇宙の真ん中で
キラキラと輝いている。