五島のはなし③
磯男(いそおとこ)のことは、けっこう小さいときから聞いていたのですが
本当にいるかどうか半信半疑でした。
変わった人が多かった五島でも、海岸の磯にひとり住んでいるという
磯男の話はなんとなく信じられなかったんです。
だって、まず名前が民話っぽくて。
そんなある日、仲のいい友人と
あぶんぜ(溶岩でできた海岸の名前)にカニ釣りに行きました。
しばらく没頭していたのですが、あるとき友人が「ほら!」と指差す。
見れば、岩陰から乱れた長髪の裸の男が現れ、
ごつごつした溶岩の上をすべるように駆けていく。
明らかに一般人(この表現が正しいかどうかわからないが)ではない。
おおっ!ホントにいるんだ!磯男さん!
その生き方は(いや、正直、生き方なんてなんも知らないですけど、想像で)、
現代社会へのアンチテーゼのようでもあり、めっちゃワイルドで、かっこよくって、
もう見た瞬間から、さんづけでした。
砂浜がきれいとか、教会がたくさんとか、魚がうまいとか、
五島を紹介する言葉はいろいろあるのですが、
「磯男がいる」、これだけで十分と思っています。
な、な、な、なんですか、磯男さんて。
世捨て人? 単にワイルドな人?
たぶん、世捨て人で
かつワイルドな人だと思います。