細田高広 09年6月28日放送

1.5

クリント・イーストウッド

若きクリント・イーストウッドに、
銃より口を多く使う、
おしゃべりなガンマンの
役がまわってきた。

脚本を読んだ彼は、
ガンマンが語り過ぎることに
どうも納得がいかず。
すぐさま監督に詰めよった。

見る側に考えさせるのが、A級映画。
すべて説明してしまうのは、B級だ。
観客を、みくびってはいけない。

そう言うと彼は自ら、
10ページ分のセリフを、
わずか1行に書き換えた。

マカロニウェスタンの名作、『荒野の用心棒』。
無口なガンマンは、こうして誕生した。





2

ジョン・ケージ A

作曲家ジョン・ケージ。
彼の代表作を、聞いてみよう。

何も聞えない?
いや。
あなたは確かに聞いている。

1940年代の末。
『無音』を聞くべくハーバード大学の
『無響室』へ入ったジョンは、そこでもなお、
血液や神経の音が聞えたことに驚く。

風が、心臓が、空調が、
全てが音を持つこの世界で、
完全な無音などありえない。

そう気付いた彼は「4分33秒」を作曲した。
沈黙でできた4分33秒の音楽。

さぁ、もう一度少し聞いてみよう。

あなたには、何が、聞こえましたか?

2.5

ジョン・ケージ B

その音楽は、
2001年9月5日ドイツで始まった。

無音パートが1年半続き、
2003年には最初のコードが鳴らされた。
2006年にコード変わり、
2008年に6番目の音が鳴り、
その音楽は、まだ続いているどころか
2639年まで終わらない。

600年以上かかる音楽を、
馬鹿馬鹿しく思うとき。

同時に、
分刻みで動く一日も同じくらい
馬鹿馬鹿しく思えてくる。

おそらくそれが、
作曲者ジョン・ケージの狙いなのだ。

“AS SLOW AS POSSIBLE”

その曲は、今日も、のんびり、続いている。

3

ジャンヌ・モロー

女優、ジャンヌ・モロー。

映画「突然炎のごとく」で
自由奔放な主人公を演じた彼女は
美しいだけではない
新しい女性像を表現した、と絶賛される。

公開後「主人公は私そのものです」
という内容の手紙が、
世界中から届いたほど。

そんな彼女が、
理想の男性像について、
こう語っている。

名声も知性もお金もみんな私がもっている。
だから男は美しいだけでいい。

現実の彼女は、
スクリーンの中より、革新的だった。


4

スパイク・ジョーンズ

ブランド会社の経営者。
TV番組のプロデューサー。
映像作家。俳優。
そして、映画監督。

これらの肩書きは、全て一人の男、
スパイク・ジョーンズのものである。

ジャンルの壁を軽々飛び越え
次々と新しい驚きを世に「発信」する彼。

その頭の中には、どれだけ緻密で戦略的な
思考回路が巡っているのだろう。

俳優マルコヴィッチは、こう証言する。

スパイクには、語彙が数えるほどしかない。
「それはいい!」「驚いた!」「クレイジーだね!」。
ほんと、なんでも面白がるんだ。

誰よりも発信する男は、
誰よりも受信する男でもあった。


5

セルジュ・ゲンスブール 

人生の成功は、どう定義すれば良いだろう。

セルジュ・ゲンスブールは、
自らのルックスにコンプレックスを抱えた、
実に気弱な男だった。

コンプレックスを燃料に、
曲を書き、歌をうたい、映画を撮り、
ポップスターになった。

気弱な自分を偽るように
テレビの前でお札を燃やし、
挑発的な態度をとることで、
若者たちの尊敬を勝ち取った。

だが結局、コンプレックスは、
最後まで拭えなかった。
そんな生き様を、彼は自らこう評している。

全てにおいて成功したが、人生には失敗した。

6

パブロ・ピカソ

本当の怒りとは、案外、静かなものだ。

1940年、
ドイツ軍がパリを占領した際、
多くのアトリエが、
ナチスの検閲を受けることになった。
農民などを描いた具象画以外は、
すべてが、退廃芸術と見なされたのだ。

とあるアトリエで。
ナチスの検閲官が、泣き叫ぶ女性や狂った馬の
描かれた壁画の写真を見つけた。

「これを描いたのはあなたですか?」
検閲官がアトリエにいた男に尋ねると、
男は静かに答えた。

いや、違う。きみたちだ。

男の名は、パブロ・ピカソ。
壁画のタイトルは、『ゲルニカ』といった。


7

ブライアン・イーノ 3.25秒の音楽

デビッドボウイやU2
のプロデューサーにして環境音楽の創始者、
ブライアン・イーノ。
彼の元に、ある日一風変わった作曲依頼が舞い込む。

人を鼓舞し、世界中の人に愛され、
明るく斬新で、感情を揺さぶられ、
情熱をかきたてられるような曲。
ただし、長さは3秒コンマ25

アイデアに悩むスランプ期にあったブライアンは、
「待ち望んでいた難題だ!」と快諾。

やがて生まれた音楽とは、

そう、あのWINDOWS 95の起動音。

パソコン時代を告げるファンファーレとして。
世界のデスクで奏でられた。

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