八木田杏子 09年8月2日放送
マリリン・モンローの苦悩
マリリン・モンローは、愛される自信がなかった。
愛してくれようとする男があらわれると、不安になった。
この人は、本当の私を知らないから、優しくしてくれる。
すべてを知ったら、きっと、捨てられる。
だから男に、逆らえない。
だから男を、試そうとする。
極端に揺れる気持ちの狭間で、
アルコールに溺れて、乱れていく。
耐えきれずに夫が去ると、
ほら、やっぱりね、と言って、また酒を飲んだ。
幸せには慣れていないの、と呟きながら。
マリリン・モンローの葛藤
男の傷を、男でうめる女がいる。
マリリン・モンローは、いつも、
新しい男の胸で、古い傷をいやした。
メジャーリーガー・ディマジオの乱暴さで傷ついたら、
作家アーサー・ミラーの繊細さで癒した。
ミラーの陰険さに傷ついたら、
俳優イヴ・モンタンの優しさで癒した。
振り子のように揺れて、
極端に違う男を、求める。
女を傷つけない男なんて、いないから。
マリリン・モンローの振り子は、とまらない。
マリリン・モンローの初恋
マリリン・モンローの初恋は、クラーク・ゲーブル。
二十年間、頭の中で思い描いていた人。
やっと会えたのは、映画「荒馬と女」の撮影現場。
砂漠での撮影は、過酷を極めたけれど。
ゲーブルだけが、マリリンの支えだった。
腕をからめて、こっそりキスをねだっても、
笑顔でかわされたけれど。
しっかりと目の奥をのぞきこんで、
「俺はお前の味方だ」と、言ってくれる。
カラダありきの男たちとは、違うから。
ゲーブルは、一生、初恋の人。
マリリン・モンローの誕生
ハリウッドの男社会を、生き抜くために、
マリリン・モンローは、タブーをおかした。
愛していない男を、利用したのだ。
ハリウッドで最高のエージェント、ジョニー・ハイド。
53歳の彼を、マリリン・モンローは虜にした。
女をもてあそぶハリウッドで、
男をひざまずかせた金髪の小娘。
その噂は、たちまち広がった。
一度イメージが汚れてしまうと、
どんなに演技の勉強をしても、
セックスシンボルから、抜け出せない。
愛していない男の手は、借りてはいけなかった。
マリリン・モンローの絶望
たくさん泣ける女は、キレイになれる。
涙でしかあらえない傷を、のりこえたとき、
女はキレイになれる。
マリリン・モンローは、まさに、
泣きつくす人生だった。
母親にすてられたときは、
毛布にうずくまって、泣いた。
プロデューサーに騙されたときは、
悔しくて、泣き崩れた。
夫に利用されつくしたときは、
声を殺して泣いた。
人を惹きつけてやまない、
マリリン・モンローの微笑みは、
涙からうまれた。
マリリン・モンローの憂鬱
カメラが止まっても、
マリリン・モンローは、演技を続けた。
自分がつくりあげた女になりきれば、
愛されると信じて。
お尻を大きくふるモンローウォークのために、
右のヒールを6ミリだけ短く。
眠るときは、シャネルの五番だけを、まとう。
3つの口紅を使って塗りあげた唇を、
つきだすようにして、笑う。
マリリン・モンローが完璧になれば、なるほど。
その仮面が剥がれ落ちるのが、怖くなっていく。
マリリン・モンローの終焉
男を追い越したとき、女の人生は、難しくなる。
夫は、仕事をやめろと言った。
成功していく妻に、嫉妬しているように見えた。
わずか9カ月の結婚生活が終わり、7年が経ったころ。
マリリン・モンローでいるために、
心が壊れてしまったとき、
抱きしめてくれたのは、あのディマジオだった。
そのときに、はじめて、
夫が、モンローをやめろと、言っていた理由を知る。
素顔のノーマ・ジーンで愛されるなら、
マリリン・モンローは、もう、いらない。
マリリン・モンローの価値
女は若いうちが、華だ。
そんな考えを、覆すように。
マリリン・モンローは、
年を重ねるほど、自分の価値を上げていった。
二十歳のころは、グラビアモデル。
三十歳で、ハリウッドのスター。
三十五歳で、大統領をはじめ国民すべてを虜にする。
懸命に階段を昇りつづける人生が、突然、終わったあと。
マリリン・モンローは、女性の美の象徴になった。
8月5日で、モンローが亡くなって47年。
私たちはまだ、彼女を忘れることができない。