バスケットマン、桜木。
10代を部活に明け暮れたやつは、
夏になると、あの頃を思い出す。
部活は、家。
そこには、絆があって、居場所があって、いざこざもあって。
部活は、檻。
そこから、みな一度は脱走を企て、縛られない自由に憧れて。
部活は、幻。
そこでの、とくべつな日々はいつか終わるという覚悟の下で。
湘北高校バスケ部に入部した、桜木花道は、
夏の体育館で、シロートから天才への進化を遂げる。
その姿を、かつての部活少年、部活少女たちはみな、
ハラハラと、自分のことのように見守った。
だから、漫画「スラムダンク」は、1億冊も売れたんだろう。
みんなブーブー言いながら、部活が、大好きだったんだ。
キャプテン、赤木。
夏の体育館は、
やる気なき者を追い出しにかかる。
肺がヤケドするかのような、熱の篭もった空気。
足を滑らそうと狙ってくる、汗まみれの床。
膨れ上がったボールは、本気でキャッチしないと、突き指をする。
そんな体育館を、湘北バスケ部キャプテンの赤木は、
誰よりも愛していた。
弱小チームでありながら、心はいつも全国制覇。
そのスピリッツに、僕らはいつも励まされた。
大人になった今も、ちょっと何かを怠けていると、
すぐに頭の中に聞こえてくるようだ。
あの、キャプテンの口癖が。
「ばかもん!」
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
シックスマン、木暮。
多くの少年少女は、
10代の夏に、
初めての挫折を味わう。
「補欠」という現実。
部活の試合に出られない、レギュラーになれない、自分。
ある者は、悔しさをバネにする。
ある者は、悲しみにふさぎ込む。
ある者は、調子よくやり過ごし、
ある者は、不公平だと憤る。
ところが湘北バスケ部の控え選手、3年の木暮は、そのどれでもなかった。
自分を追い抜いていく後輩の成長を心から喜び、
負けじと、自らも練習に励んだ。
メガネ君と呼ばれた、その彼は、レンズの奥から、
いつもチーム全体を見ていたのだ。
木暮君が放ったシュートで、
ラスト1分、勝てば予選突破という最終試合。
湘北高校は見事に全国行きを決めた。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
No.1ガード、宮城。
なんで、オレの敵はいつも、スゴイやつばっかなんだ。
なんで、オレより皆、10cmも背がでけーんだ。
なんで、オレはそれでも、まるで負ける気がしないんだ。
なにをして、オレはあいつらに、一泡吹かせてやろうか。
まったく・・・ アヤちゃん。
バスケ部のマネージャーだったキミに、
一目惚れなんてしたばっかりに。
こんな楽しいことになっちまった。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」の、
宮城リョータを思い出す。
天才シューター、三井。
かつて男はスターと呼ばれた。
バスケットボールで、かなうやつは殆どいなかった。
悲劇は突然。大怪我。長引くリハビリ。
拭えない焦りと、チームから必要とされなくなる恐怖。
そんな葛藤から、いつしかバスケを憎むようになっていた。
気がつけば、体育館に土足で殴り込んでいた。
しかし――――
安西先生・・・ バスケが、したいです。
憧れの恩師の前で、男はウソをつけなかった。
バスケなんか嫌いだ、というウソを。
こうして、天才シューター 三井 寿 は再びコートに戻ってきた。
チームのためにすべてを捧げているうちに、
かつての自分を、とっくのとうに越えていた。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
スーパールーキー、流川。
二の腕が痛いほど、シュートを打ち込んだか。
両ヒザが笑うほど、ダッシュを繰り返したか。
目と閉じても、ゴールまでの距離が分かるか。
画面に穴が開くまで、対戦相手のビデオを見たか。
全身の筋肉と関節を、とことん苛め抜いたか。
バッシュを何足、履きつぶしたか。
勝つイメージを、何種類描いたか。
すべてにYesと答えられなければ、
湘北バスケ部のルーキー、流川と戦うには、まだ早い。
日本一の高校生を目指してるあいつのことだ、
おめーにかまっているヒマはねぇ、
なんて言われんのが、オチさ。
夏が来ると、部活の日々を思い出す。
青春のバスケ漫画「スラムダンク」を、思い出す。
安西先生
安西先生は、言った。
あきらめたら、そこで試合終了だよ。
かつてスラムダンクという漫画が、
社会現象的にヒットする中で。
このコトバはいちばんの名ゼリフとして、
どんどん一人歩きしていった。
恋愛も、
犬のトイレのしつけも、
CO2削減も、
あきらめたら、そこで試合終了だよ。
そんなふうに言われたら、
あきらめるわけにいかない。
だって、試合を途中で投げるなんて、
部活少年のやることじゃないじゃないか。
井上雄彦
高校のバスケ部を描いて人気絶頂だった
漫画「スラムダンク」は、
全国トーナメント第二戦という
中途半端なところで突如連載を終了した。
作者の井上雄彦は、こう言った。
前の試合よりも、
つまんない試合は絶対描きたくなかった。
バスケの神様マイケル・ジョーダンが、
これ以上、最高のプレイを見せることができないという理由で
引退したように。
井上の引き際は、まさにスポーツマンのそれだった。