8月16日に亡くなった人 ~ アンリ・デグランジュ
歴史の始まりはたいてい
腰が抜けるほど単純なものだ。
「自転車レースの日は新聞がよく売れる。
だったらレースの方をつくろう。」
スポーツ紙ロトの編集者、
アンリ・デグランジュが
売上げアップのために始めたレース。
それが今では世界一有名な自転車レース
「ツール・ド・フランス」となった。
動機はあくまで
単純な方がいい。
今日、8月16日は、
アンリ・デグランジュの亡くなった日。
8月16日に亡くなった人 ~ 震洋特攻隊
ベニヤ板を接着剤で貼り合わせただけの
おもちゃのようなモーターボートを集めて
どこかの見知らぬ大人たちが「特攻隊」と呼んだ。
乗組員は人間ひとりと、爆薬250キロ。
1945年8月16日。
戦争が終わったはずの翌日に、
初めて出撃の命令が下る。
準備中、一つの船が爆発して、
111人の若者が、こっぱみじんになった。
震洋特別攻撃隊、手結基地。
東京から遠く離れた高知の海辺の小さな村で、
誰も戦争が終わったなんて教えてくれなかった。
「国のために死ぬ覚悟はできていた。
しかし犬死をする覚悟なんて持っているわけがない。」
生き残った男の目には今もはっきりと
真っ赤に染まる海が見える。
人間が始めた戦争なのに
人間はそれをうまく終わらせることができない。
なのにまた世界のどこかで
今にも始めようとしたりしてる。
どうして人間はそんなにも。
どうして人間はこんなにも。
8月16日に亡くなった人 ~ エルヴィス・プレスリー
メンフィスの小さなレコーディングスタジオに
ふらりとやって来た白人の若者。
高校を卒業しトラックの運転手をしているという18歳は、
聞けば母親の誕生日に歌を贈りたいという。
黒人初の大統領が生まれるたった50年前のアメリカでは、
人種の壁ははるかに高く、
それは音楽ですら例外ではない。
黒人はブルース。
白人はカントリー。
オーナーのサム・フィリップスが
どんな歌を歌えるのかとたずねるとこう答えた。
「僕は何でも歌えます。
僕は誰にも似ていません。」
彼の名は、
エルヴィス・プレスリー。
何かに例えようとする時点で、
それはもうロックではない。
そもそもロックなんてジャンル自体、
ロックの神様には失礼な話。
今日、8月16日は、
エルヴィス・プレスリーの
亡くなった日。
8月16日に亡くなった人 ~ 佐伯祐三
1923年。
西洋画の聖地、
パリに渡った佐伯祐三は、
狂ったように絵を描いた。
その狂気は、
画壇を鮮やかに彩るかわりに、
彼自身の心と体を黒く黒く塗りつぶしていく。
「きっと俺はやりぬく
やりぬかねばおくものか
死-病-仕事-愛-生活」
何よりも死が一番近く、
だからこそ必死で生きた。
今日、8月16日は、
佐伯祐三の亡くなった日。
8月16日に亡くなった人 ~ ベラ・ルゴシ
黒いマントと燕尾服。
オールバックに白い牙。
「魔人ドラキュラ」で一躍スターとなったベラ・ルゴシは、
その後、自ら作り上げたドラキュラ像から逃れられず、
B級俳優の烙印を押される。
彼は亡くなる直前こう言い残す。
「埋葬するときには
黒いマントを着せてほしい。」
最後までドラキュラでありつづけようとした彼が、
B級であるはずはない。
今日、8月16日は
ベラ・ルゴシの亡くなった日。
8月16日に亡くなった人 ~ マーガレット・ミッチェル
自分を書くことはひどく勇気がいる。
偽善的にも偽悪的にもすぐなり下がるから。
作家、マーガレット・ミッチェルはその点、
正直すぎるほど正直に自分の人生を書いた。
「風と共に去りぬ」の主人公スカーレットは、
彼女そのもの。
結婚した男は粗暴で不埒で魅力的。
それでも昔の恋が忘れられずに傷つき別れる。
「Tomorrow is anotherday.」
それはきっと彼女が
自分自身に言い聞かせ続けた言葉。
今日、8月16日は、
マーガレット・ミッチェルの
亡くなった日。
8月16日に亡くなった人 ~ セルマン・ワクスマン
正岡子規からショパンまで
世界中の才能を奪い続けた死の病、結核。
その特効薬を発見しノーベル賞を受賞した、
セルマン・ワクスマン。
しかし実際にこの抗生物質を発見したのは
彼の研究室にいた23歳の研究生だった。
部下の栄誉を横取りした非道な上司とみるか。
部下に資金と機会を与えた偉大な上司とみるか。
今日、8月16日は、
ワクスマンの亡くなった日。
8月16日の送り火
盆地を囲む五つの文字が
京都の空を赤く燃やす。
今夜、京都では
亡くなった人を偲ぶ、
大文字五山送り火が行われている。
今日、8月16日に亡くなった、
プレスリー、ミッチェル、佐伯祐三。
あぁ。
あなたたちの残したもののおかげで
こんなにも私たちは
泣いたり笑ったり驚いたりできます。
「人を思う」と書いて
「偲ぶ」。
さて、
あなたは今日、
誰を思いますか。