小山佳奈 09年9月12日放送
ツィオルコフスキー
宇宙には音がない。
あるのはどこまでも続く静寂。
ロケットが宇宙に行けることを
世界で初めて証明した
ツィオルコフスキー。
9歳で聴覚を失い
中学校にも入れなかった彼は、
ほぼ独学で宇宙と向き合い、
宇宙を手にした。
耳の聞こえない彼にとって
宇宙は誰よりも公平だと
彼は思ったのかもしれない。
フォン・ブラウン
ただ月に近づきたかった。
ただ月をその手につかみたかった。
宇宙を夢見るフォン・ブラウン少年は
ヒトラー率いるドイツ陸軍の下、
ひたすらロケットを作り続ける。
大戦後、
NASAにスカウトされ、
アポロ11号を月へと導いたブラウンは、
ナチスに協力した過去を問われた時、
こう答えた。
私は宇宙へ人間を飛ばす目的のためならば、
悪魔と手を握っても働き続けたいと思った。
夢は大きければ大きいほど
その分の覚悟を要求してくる。
糸川英夫
「太平洋を20分で横断するロケットをつくる」と宣言した時も。
23センチのペンシルロケットを打ち上げた時も。
周りの大人たちは失笑し、あるいは嘲笑した。
糸川英夫はそんな大人たちに目もくれず
せっせと宇宙に近づいた。
しかしその膨張するやっかみは
彼をすっぽりのみ込んで
憧れ続けた宇宙を彼から奪った。
いま太陽系には
イトカワという名前の小惑星がある。
糸川が死んだ後、大人たちがつけた。
その功績をたたえて。
今ごろ糸川は地球を見下ろし
何が功績だと笑っているに違いない。
ジョン・グレン
77歳で宇宙飛行士となったジョン・グレン。
彼は記者会見でこんな質問を投げかけられた。
無重力を老人に試す実験なら
上院議員のあなたではなく
66歳で現役飛行士の
ジョン・ヤングが行くべきでは。
彼はニヤリと笑って
こう答えた。
He is too young.
やはり彼は
宇宙にふさわしい。
ジョン・ヤング
宇宙飛行士ジョン・ヤングはかねてより
チューブの味気ない宇宙食に耐えかねていた。
彼は特注のターキー・サンドウィッチを
ロケット内に持ち込むことを目論んだ。
もちろんそれは見つかって
こっぴどく叱られたけれど。
そういえば
「2001年宇宙の旅」にも
ハムやチキンのサンドイッチを
飛行士たちがほおばるシーンがある。
少なくとも人間の食欲は
無重力にも負けない。
食欲の秋。
大いにけっこうじゃないですか。
ニール・アームストロング
人類で初めて月に降り立った
ニール・アームストロング。
彼は月へと向かうアポロ11号の中で
サミュエル・J・ホフマンの
「月からの音楽」をよく聴いた。
この曲にはテルミンが使われている。
奇妙にあたたかいその電子音は、
宇宙と自分とつなぐ糸だったかもしれない。
彼は地球上のどの詩人よりも
ロマンチストであった。
毛利衛
空の美しい街に生まれた少年は
空を見上げて育った。
毎日毎日空を見上げているうちに、
少年は宇宙飛行士になっていた。
17年前の今日、
空を見上げて育った少年、毛利衛は
颯爽と宇宙へ飛び立った。
宇宙。
たったその2文字に
どれだけの時間と才能が
費やされたことだろう。
人間はそれでもまだ引きつけられる。
宇宙はやはりブラックホールだ。
今日は宇宙の日。