名雪祐平 09年9月19日放送
イチロー
イチロー、あなたは、タイムマシーン。
1世紀以上も昔の大リーグ記録を
時空を越えて連れて来てくれる。
あなたの打球が、
青い空を切り、芝生の絨毯の上を縫う間、
世界の時間は止まる。
何千本のヒットを重ねても、
あなたはこう言った。
ヒット1本って、
飛びあがるくらいに嬉しいんですよ。
野球が好きで好きでしょうがない。
限りないひたむきさが、
きっと、タイムマシーンのエンジン。
コラソン・アキノ
大統領選挙の立候補用紙。
彼女はその職業欄に、
「Housewife」主婦と書いた。
フィリピンの独裁政権に
立ち向かった夫が暗殺され、
いわば、その代役。
独裁者マルコスが、
素人に政治は任せられない、と攻撃すると、
彼女も見事に反撃。
国民を欺き、盗み、
暗殺した経験がないという意味では、
私は素人だ。
苦しんできた国民が熱狂しないはずはない。
1986年、元Housewife、
コラソン・アキノ大統領はこうして誕生した。
鈴木澄子
女の幽霊は、美人に限る。
戦前の美人女優、鈴木澄子は
四谷怪談のお岩さんや、化け猫役で売れた。
私生活でも、人をびっくりさせる
いたずら好き。
トイレに入っているとき、
ノックされると、
いつもこんなふうに
こたえたのだという。
どうぞ。
やっぱり、この美人、
ちょっとこわい。
やなせたかし
ぼくの顔をたべてごらんよ。
そんな型破りなヒーロー、
アンパンマンは、
なぜ生まれたか。
作者やなせたかしが、
戦争体験と、戦後のひどい食糧事情で
こう思い知らされたから。
究極の正義とは、
ひもじい人を救うこと。
アンパンマン、
もし、あなたが実在するとしたら、
まず、どこへ行きますか。
桑田真澄
その巨人・阪神戦で、
三塁とホームの間に小さなフライがあがった。
ピッチャー桑田真澄は、
キャッチしようとダイビング。
その着地の衝撃で、右肘靱帯を断裂。
それから2シーズンを棒に振る重傷だった。
661日ぶりのカムバック第1戦。
小さなフライがあがる。
残酷にも、あの日を再現するような。
それでも桑田は、迷うことなく
全力でダイビングした。
無事だった。
よく、ベストを尽くす、というけれど、
どこまでいったらベストなのか。
その答えが桑田のプレイにあった。
千利休
われこそが一番。
豊臣秀吉は、天下人となっても
まだまだ権威が欲しかった。
その欲望は、茶の湯に向かった。
「秘伝の作法」をつくり、それを教える資格を
自分と千利休の2人だけで独占。
利休はそれを弟子に伝授しながら、
きゅうくつな秘伝などまったく重要でない、
一番の極意は別にある、と伝えた。
それは自由と個性なり。
利休の茶の湯は400年後のいまに残った。
人間の自由と個性は、権威より、しぶとい。
北島康介
日本のスポーツ選手のインタビューは、
どこか似ている。
たとえば、話し始めに、
そうですね。と付けるパターン。
そうですね。と話す間に
次の言葉を考える、というメディア対策の
テクニックかもしれないけれど。
もうすこし、自由な言葉を望むのは、
わがままだろうか。
たとえば、水泳の北島康介選手のような。
チョー気持ちいい。
何もいえねぇ。
試合直後のこんなナマな言葉が
心をつかむと思うから。
マザー・テレサ
ノーベル平和賞の受賞インタビューで
マザー・テレサに次の質問があった。
世界平和のために、
わたしたちは何をしたらいいのですか。
マザー・テレサのこたえは、
とてもわかりやすかった。
家に帰って、
家族を大切にしてあげてください。
平和はまず手近なところから。
一人暮らしの人は、だれかを想うところから。
今夜も、穏やかに、おすごしください。