時を越える アントニオ・ガウディ
人は2つのタイプにわかれる。
ことばの人と行動の人だ。
私は後者に属する。
そう語ったのは、スペインの建築家
アントニオ・ガウディ。
そう、あのサグラダ・ファミリア教会の設計者。
幼いころから手先が器用だった彼は
自らの手で作りながら設計することを好んだ。
一方で、自らの考えを伝えたり、
他人の理解を得るために
文章や図面を書くことは大の苦手。
おかげで、着工から120年という膨大な時間の経つ
サグラダ・ファミリアは、今もまだ建築中だ。
なにしろ、ガウディ先生は
たった一枚のスケッチしか
ヒントを残してくれなかったのだから。
晩年、完成までの年月を聞かれるたびに、
彼はこう言ったのだった。
神様は完成をお急ぎではないよ。
きっと、人は2つのタイプにわかれる。
時間に囚われる人と
時間を越える人。
そして、後者にだけ与えられるのが、
未来に遺せる創造力なのだろう。
400年前からの手紙 俵屋宗達
琳派(りんぱ)の創始者であり、
国宝「風神雷神図」を描いた、俵屋宗達。
その生涯は
自伝もなく、日記もなく、謎に包まれている。
自筆で残されているのは筍のお礼状一通だけだ。
醍醐のむしたけ、五本送り下され、かたじけなく存じ候
彼が生きた時代から約400年。
自分の記録を残さず、作品のみを残した俵屋宗達が
いっそ潔く見えてくる。
愛の賞味期限 鈴木三重吉
愛情は最高の調味料。
食べ物に対する愛情もその料理をおいしくする。
作家 鈴木三重吉の
湯豆腐に対する愛情は半端なものではなかった。
レシピを訊ねる友人に
4メートル近い巻物に
延々と湯豆腐へのこだわりを書いて送った。
そこまで愛情をそそがれたら、
湯豆腐だってとびきりおいしくなる以外に道は無い。
止まっている時間 遠藤新(あらた)
1923年9月1日午前11時58分32秒。
その日、そのとき
後に関東大震災と呼ばれるマグニチュード7.9の揺れが起こった。
そして、その日、その時。
帝国ホテルの竣工記念パーティーが
まさに始まろうとしていた。
避難しようと慌てふためく人々の
悲鳴と怒号が飛び交うなか
ひとり、時間がとまったかのように、
ホールで大の字になって寝ている男がいた。
遠藤新。
天才建築家フランク・ロイド・ライトの片腕として
また、ライトが去った後の総責任者として
帝国ホテルを完成させた男である。
彼は言った。
この広い東京のなかで、今、最も安全な場所がここだ。
事実、崩壊と復興でめまぐるしい東京の街に
毅然と建ち続ける は
そこだけ時間が止まっているようだった。