薄組・薄景子 09年10月18日放送

魂の待ち時間


魂の待ち時間 ミヒャエル・エンデ

時間どろぼうを描いた「モモ」で知られる、
ドイツ人作家、ミヒャエル・エンデ。
彼のコラムに、インディアンの興味深い話がある。

中米奥地の発掘調査団が
荷物の運搬役としてインディアンのグループを雇ったときのこと。

初日からすべり出し好調。
作業は予想以上にすすむが、
5日目、インディアンたちは地べたに座り込み、
無言のまま、ぴたりと動かなくなった。

叱っても、脅しても、全く動じない。
調査団も根をあげたその2日後、彼らは突然立ち上がり、
荷物を担ぎ上げ、予定の道を歩き出したという。

ずっと後になって、
インディアンのひとりが初めて答えを明かした。

 「わしらの魂があとから追いつくのを、
 待っておらねばなりませんでした」

スピード化、効率化、24時間営業。
次なる便利を求めて、前へ走り続ける文明社会に
もはやゴールは存在しない。

エンデが空想した「時間どろぼう」が
現実となった今。
私たちが、腰をすえて
置き去りにした魂を待つには、果たして何年かかるだろう。

見つかる時間


見つかる時間 森 瑶子

あの17年間は、なんだったんだろう。

与えられたレールにのって
大嫌いだったヴァイオリンを
泣きながら練習した日々。
しかしこの先、一生ガマンすることに耐え切れず、
17年のヴァイオリン人生を捨てる。

その後、彼女は
誰からも教えられたことのない小説を
すらりと書き上げた。

森瑶子38歳。
処女作「情事」、すばる文学賞受賞。

彼女は言う。

 「何かを好きで好きでたまらないほど、
 好きになれるのは、天賦の才なのだ」

その「何か」が見つかるまでの時間は、
人それぞれ、
寿命のように定められているのかもしれない。

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