細田高広 09年11月8日放送
The Rolling Stones 1
だれもが「まさか」と思った。
2004年、ザ・ローリング・ストーンズの
ミック・ジャガーがナイトの称号を与えられたのだ。
使い切れない大金と最高の名誉を手に入れて、
これ以上何を望めるだろう。
しかし、盟友キース・リチャーズは言う。
幸せな人生とは言えないな。
99パーセントの人間は憧れるだろうけど、
あいつはミック・ジャガーであることに、
満足していないんだ。
勲章で満たせる程度の渇きなら、
46年もストーンズを続けちゃいない。
The Rolling Stones 2
バンドなんて、気晴らしさ。
イギリスの名門大学で
経済学を学ぶ息子がロックバンドを始めたとき、
両親はその言葉を信じた。
いずれは一流のビジネスマンになる。そう疑わなかった。
しかし彼は、気晴らしのはずだったバンドを
46年経った今も続けている。
ミック・ジャガー。
彼は経済学の知識を活かして
誰よりも早く印税を計算したし、
マネジャーが不穏な動きを見せようものなら、
帳簿を自ら調べ、横領らしきものは徹底的に洗い出した。
彼は、超一流のビジネスマンとなったのだ。
ロックスター、という名の。
The Rolling Stones3
ローリングストーンズは、
人気よりも悪名が先行していた。
何よりも世間から反発があったのは、その長い髪。
当時、ストーンズを真似たヘアスタイルを理由に、
少年たちが相次いで停学処分になったほどだ。
実際に数多くのトラブルを起こしたストーンズ。
弁護士も、相当、手をやいたのであろう。
法廷で苦し紛れにこんな弁護をした。
皇帝シーザーは、
長髪であるにも関わらず、
数々の功績をあげました。
そんなエピソードひとつひとつも、
さらなるバンドの向かい風になる。
有名になるのはちっとも構わないんだ。
でも、法廷ではそれが裏目にでる。
キースリチャーズは、実に悔しそうに言った。
The Rolling Stones 4
囚人番号7855。
麻薬所持で服役中のキース・リチャーズは
さすがに落ち込んでいた。
ある日、
刑務所内の作業場へと向かう途中で、キースは
ラジオからストーンズの曲が流れてくるのを耳にする。
その瞬間、刑務所中の囚人の口から
建物を揺るがすような歓声が上がった。
絶望は、勇気に変わった。
The Rolling Stones5
どこで間違って、
あんな薄汚れた奴らが
若者たちのヒーローになったのか。
イギリスを飛び出し、アメリカでも
人気に火のついたローリング・ストーンズを、
良く思わないメディアは多かった。
だいたい、肝心な演奏だって上手いとは
言えたものじゃない。
そんな批判に対して、ミック・ジャガーは言うのだ。
俺たちは、ノイズを出してるだけだ。
それを音楽と呼んでくれたら有り難いね。
内面を表現するためなら、楽譜なんて関係ない。
それが、ストーンズの信条。
実際、彼らが汗を流し音を出しさえすれば、
それが上手いか下手かを気にするものなんて、
一人もいなかった。
The Rolling Stones6
就業時間が待ち遠しい。
ロックンローラーだって、
そう思うときはあるらしい。
ロックンロールが全てなんて馬鹿げてるよ。
誰だって仕事が全てだなんて思ってないだろう?
大金とセレブリティの称号を
手に入れたミックジャガーにとって、
音楽はあまりに商売になり過ぎた。
やっつけでこなしたライブやレコードは、
徐々に評価を失っていく。
ロックンロールに未来はない。
そう語るとき、
ロックンロールとは、
自分のことを意味してた。
The Rolling Stones 7
1989年、事実上の活動休止期間を終え、
ザ・ローリング・ストーンズが
再び始動し始めたとき、
メンバーは40代の半ばを迎えていた。
ミックはしわだらけになり、
キースは広がった額をバンダナで隠した。
それでも威勢だけは、20代のころのままだった。
ローリングストーンズは
長い長い全盛期を、今も確かに続けている。
The Rolling Stones 8
「もう若くないから」という言葉を
口にしかけたとき、思い出す顔がある。
ザ・ローリング・ストーンズだ。
俺たちは、間違った考えと闘ってるんだ。
ロックンロールは、若造のやるものだと
みんな思ってやがる。
彼にとって歳を重ねることは、失うことではない。
むしろ、全てを手にすることのよう。
長生きの秘訣は何ですか?
という記者の質問には、
ストーンズのメンバーになることさ。
と答えて笑うキース・リチャーズ。
なるほど。
ヤンチャな顔は20代の頃と全く変わらない。