石橋涼子 10年08月22日放送
1.夏の風物詩 人魂 葛飾北斎
浮世絵画家 葛飾北斎先生が
90歳で亡くなったときの辞世の句がある。
ひとだまで 行く気散じや 夏の原
浮世のしがらみから自由になって
ふわりふわりと夏の原っぱを飛びまわれば
さぞ気持ちのいいことだろう。
北斎先生にかかったら
死ぬこともこんなに涼しい。
2.夏の風物詩 日本初のビヤガーデン
日本のビールの父と呼ばれているのは、
ウィリアム・コープランドというビール好きのアメリカ人。
当時の日本ではおいしいビールが飲めないという不満から
明治2年、自ら醸造所をつくったのだった。
彼のつくったビールは、
日本人にもビアザケと呼ばれ愛されたが
15年後、資金難から醸造所は人手に渡ってしまった。
しかしそこはビールを愛するコープランド。
今度は、自宅の庭を開放して
できたてのビールを客にふるまうことにした。
これが、日本初のビヤガーデン。
彼が日本の夏にもたらしたものは大きい。
ビヤガーデンで飲む一杯を想像するだけで
夏の暑さも疲れもゆるむというものです。
3.夏の風物詩 ウナギの滋養
土用の丑の日にウナギを食べよう
と言い始めたのは平賀源内という説も
文人の大田南畝(なんぼ)という説もあるが、
万葉の時代からウナギは夏の滋養食だった。
「万葉集」で、大伴家持はこんな歌を詠んでいる。
石麻呂に われ物申す 夏やせに
よしというものぞ 鰻(むなぎ)とりめせ
夏バテの友人を心配してか、からかってか、
ともあれ鰻を食べるよう薦めている。
おいしいものを食べるための理由は
いくつあってもいい。
4.夏の風物詩 風鈴 黒澤明
映画監督、黒澤明は音に対しても強いこだわりを持っていた。
すべての音は、人の持つ記憶につながっている。
そう考える黒澤監督は、
特に、季節感の音と、情感の音にこだわりを持っていたという。
映画「赤ひげ」のワンシーンでは、
ある男が、生き別れの女房と
浅草のほおずき市で再会する。
ふたりが互いの存在に気づいた瞬間、強い風が吹く。
ほおずきの籠に吊り下げられた風鈴が一斉に鳴り響く。
赤ひげの時代に、ほおずき市に風鈴は飾られていなかった。
スタッフにそう告げられた監督の答えはというと。
違ってもいい。
最高の風鈴を持ってこい。
こうして日本中から選ばれた風鈴の音色は、
通常のものよりも余韻が2倍も長く
映画の中のふたりの再会のはかない結末を惜しんでいる。
黒澤監督は、こう語る。
映画音楽というのは、画に足したのではだめた。
掛け算にならないとだめなんだ