歴史的な発見のきっかけは、
犬が穴に落ちたことだった。
1940年9月12日。
フランスのある田舎町の森の中で、
少年たちが犬と遊んでいた。
森には数年前の落雷で空いた穴があり、
そこに犬が落ちてしまったのだ。
犬を助けようと穴に降りると、
穴は、洞窟につながっており
少年たちはその壁に牛や馬、鹿の絵を見つける。
ラスコーの洞窟壁画発見の瞬間だった。
一万五千年の時を経て、洞窟の壁が、
少年とクロマニヨン人を結びつけた。
1マイル、約1609メートル。
半世紀前、この距離を4分以内で走ることは、
人類が決して越えられない壁だと言われていた。
あるスポーツ記者は、
「人類が南極点と北極点に到達し、
ナイル川の源流を発見し、海の最深部に達し、
未開のジャングルを踏破した現在も、
1マイル4分という領域はいまだ未踏のまま、
多くの者たちの努力を拒み続けている。」という記事を書いた。
ある医者は、1マイル4分は人体の限界であり、
その挑戦は生命に危機を及ぼすこともあると警告を発した。
しかし、その壁は破られた。
1954年、イギリスの大学生ロジャー・バニスターが、
1マイルを3分59秒4で走り抜けたのだ。
この2ヶ月後、
ジョン・ランディという選手が3分58秒0の世界新記録を出し、
つづく1年の間に23人ものランナーが1マイル4分の壁を破った。
誰かが壁を超えたとき、そこにもう壁はなくなる。
ロジャー・バニスターは、
1マイル4分の壁から人類を自由にしたのだ。
ニューヨーク、ウォール街。
壁の街という名前は、この街を作ったオランダ人が
外敵の侵入を防ぐために
材木で壁を築いたことに由来する。
2008年にはビル・ゲイツを抜いて
世界の長者番付第1位に躍り出た天才投資家、
ウォーレン・バフェットは
ウォール街から1万キロ離れたところに住んでいる。
そして、こんなことを言う。
みんなが貪欲になっている時は警戒しろ。
みんなが警戒している時は貪欲になれ。
ウォール街の逆をいって富を築くのも
また壁を味方にしたといえるだろうか。
山を見ると、登りたくなる。
壁を見ると、越えたくなる。
そんな登山家の聖地は飛騨山脈、通称北アルプス。
その厳しく切り立つ岩肌は、山と言うよりもはや壁。
どんなベテランの登山者でも
思わぬ事故に遭遇することもある。
しかし、そこには富山県警山岳警備隊がいる。
富山県警山岳救助隊は1965年に結成され
隊員数27人。救助した人は3,000人。
日本一の山岳警備隊と呼ばれ、
「落ちるなら、富山側へ」と言われるほど登山者の信頼は厚い。
想像を絶するような過酷な状況での人命救助の場で
人体の限界という壁に直面した時、彼らを支える言葉がある。
苦しくても、苦しくない。
彼らもまた、壁を越えているのだ。
倒れている時、地面は壁になる。
壁をなくすには、立ちあがればいい。
立ちあがった時、地面は壁ではなく、道になるから。
南アフリカ共和国の元大統領、ネルソン・マンデラ。
人種の壁と闘い続けた彼は、こんな言葉を残している。
転ばないことより、
転ぶたびに立ちあがること。
そこに人生の輝きがある。
倒れることを、恐れない心。
それが、壁を道に変える極意のようです。