坂本和加 10年10月16日放送


「かける」× マーガレット・ハウエル

椅子は、かけるもの。
けれど、だれもかけていなくても
美しいと思わせる椅子がある。

ミッドセンチュリーの英国製。
その椅子を復刻し、
現代にプレゼンスしたのは、
ファッションデザイナーの
マーガレット・ハウエル。

アーコール社製の
その椅子には
著名なデザイナーの
華々しさはないけれど、
質のいい職人の作った
堅牢な機能美がある。

長く使えるもの。
多少ほころびても、
くたびれても、捨てられないもの。

「よいもの」であること。
それがマーガレット・ハウエルのデザインだ。

Good design is timeless.


「賭ける」× 寺山修司

ひとつの肩書きにはおさまらず、
まさに、職業「寺山修司」だった彼が、
大の競馬好きでもあったことは、
よく知られていること。

おもしろいのは、
寺山流馬券の買い方。
クセのある馬を気に入っては
手元の数字を組み合わせて
当てずっぽうに買う。
だから寺山は結局
いつもゼロに賭けた。

「儲かってますか」という質問には、
こんなふうに返したという。

では、あなたがこれまでに見た芝居で、
泣いたのと笑ったの、どちらが多いですか?

競馬ファンが握りしめているのは、
馬券なんかじゃない。
自分自身の過去と未来だ。


「かける」× 浜田真理子

ファン層は30代女性を中心。
そのライブには
著名なタレントや女優まで
足繁く通うという
シンガーソングライターがいる。
浜田真理子。

ちいさなジャズバーで
始まった彼女の音楽は、
いつしかせつない言葉たちを
味方につけた。

クチコミで広がった噂に、
メジャーデビューの声もかかった。
けれど彼女は、いまも松江で、
好きな音楽をして、
ふつうのひとと同じように暮らす。

東京に行かないのは、
東京でなくても、できるから。

本物というのは、やっぱりすごい。


「かける」× 小出義雄

育てた上げたマラソン選手は、
きっともう数え切れない。
有森裕子も、高橋尚子も
あの監督がいなければ、
メダルはなかったと口をそろえる。
それが、小出義雄監督だ。

小出監督は、
昨今のマラソンブームの立役者でもある。
都知事に東京マラソンを提言し、
ウェブでは市民ランナーを
指南する「小出道場」を運営する。

「一般のひとに、マラソンの楽しさを」。
金メダルのつぎに見た小出監督の夢は、
あっという間に叶った。
いまは2度目の金メダルの夢を見ている。

とにかく好きなんだな、かけっこが。

監督、つぎのオリンピックが、
今から楽しみです。


「夢にかける」× 野口聡一

宇宙飛行士、野口聡一さんは、
小学校1年生のとき文集に
「ロケットに乗りたい」と書いた。

初フライトは40才。
野口さんは30年以上も、
夢を追いかけつづけたことになる。

ただ毎日、ちいさな目標を
掲げてクリアする。
その積み重ねの延長に、
宇宙の夢も見えてきた。

100年後、宇宙飛行士は
めずらしくない職業になる。
僕は歴史に名を残すより、
宇宙への挑戦を続けた
名もなき宇宙飛行士のひとりでいい。

そうか、情熱が夢を追いかけているのだ。


「書ける」× 眞木準

たとえばあなたが、
うまいスピーチや
企画書の書けるひとを、目指すなら。
ことばを、豊かで美しく、
広がりと厚みのある
表現に変えてくれる
テクニックがある。

たとえば、
古今和歌集の時代から
いまも連綿と続く掛詞。

平成のレトリックなら、
広告のキャッチコピーに、
それが見つかる。

 ネクタイ労働は、甘くない。

コピーライター、眞木準。
クールでシャレた
コピーをつくる天才だった。


「手塩にかける」× 金子美登(かねこ よしのり)

いまでこそ有機野菜は、
安全でおいしい、
栄養価も高いと人気だが、
40年前は、そうではなかった。

お手本を里山の生態系に、
金子美登さんは
独自の有機農法を実践した。
利潤を追求するより、
「見事に循環している自然」
に含まれること。ひとも野菜も。

生産量が少ない
金子さんの野菜を
味わえるのは地元のひとだけ。

だから、いいのだ。

全国各地に、金子方式ができれば、
日本が抱えるさまざまな問題も
かわるだろうと
金子さんは思うから。

21世紀は耕す文化。
工業や製造業にはない感動が、
まだ農業にはあると、鈴木さんは言う。

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