アメリカ人作家エドガー・アラン・ポーが
1841年に発表した小説『モルグ街の殺人』。
これが史上初の推理小説と言われる。
今日、推理小説で使われるさまざまなトリックは、
そのほとんどがポーによって発明されたと言ってもいい。
密室殺人、暗号のトリック、
探偵自身が犯人だったというドンデン返し。
探偵の活躍を探偵自身ではなく、
友人役が語るというシャーロック・ホームズでお馴染みの手法も
ポーが最初に使った。
エドガー・アラン・ポー。
彼こそが推理小説の父である。
ミステリーの巨匠ヴァン・ダインがつくった、
推理小説を書く上で作者が守らなければならない20のルール。
通称「ヴァン・ダインの二十則」。
たとえば、
「事件の謎を解く手がかりは、
すべて明確に記述されていなくてはならない」。
あるいは、
「探偵は論理的な推理によって
犯人を決定しなければならない」。
それからこんなことも。
「占いや心霊術、読唇術などで
犯罪の真相を告げてはならない」。
推理小説とはいわば、作者と読者の謎解きゲーム。
ゲームをおもしろくするには厳格なルールがなければならない。
1882年、スコットランドの若い医者が
眼科を専門とする診療所を開いた。
しかし、客足はさっぱりだった。
暇をもてあました彼は、
小遣い稼ぎのために小説を書き始める。
探偵が主人公の推理小説だった。
小説を書き上げると原稿をいくつかの出版社に送った。
しかし、出版社からはことごとく掲載を拒否され、
数カ月後にようやく採用されたものの、
原稿料はたった25ポンドだった。
その小説が『緋色の研究』。
アーサー・コナン・ドイルのデビュー作にして、
探偵シャーロック・ホームズを生み出した作品である。
まったく、人生には何が起きるかわからない。
かの名探偵シャーロック・ホームズは一度殺害されたことがある。
犯人は誰あろう、作者のコナン・ドイルである。
ホームズの一連の作品によって
人気作家となったコナン・ドイルだが、
彼が本来書きたかったのは推理小説ではなかった。
そこで、ドイルはシリーズに終止符を打つべく、
『最後の事件』という小説を執筆し、
水煙を上げる滝壺の中にホームズを突き落とした。
ところが、事の顛末はドイルの目論見どおりに進まなかった。
シャーロック・ホームズの死に納得のいかない読者から、
抗議の手紙が出版社に殺到する。
その声におされてドイルはホームズの復活を決心するのである。
作者に殺され、読者に命を救われる。
名探偵の人生はじつに波乱に満ちている。
作家レイモンド・チャンドラーが生みだした探偵、
フィリップ・マーロウ。
古今東西、さまざまな探偵がいるけれど、
彼ほど魅力にあふれる探偵はいないだろう。
貧しいけれど、誇り高い。
男らしく正義感が強いが、
女性らしい繊細さも持ち合わせている。
そんな彼だけに、粋なセリフがよく似合う。
「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」
「タフでなければ生きて行けない。
優しくなければ生きている資格がない」
フィリップ・マーロウ。
その名はハードボイルドの代名詞。
くたびれた背広に、着古したレインコート。
櫛の通っていないボサボサの髪の毛。
いつも安物の葉巻を持ち歩き、
ところかまわず吹かそうとする。
口癖は「うちのカミさんがねぇ」。
テレビドラマから生まれ、
俳優ピーター・フォークが演じた刑事コロンボ。
風貌は冴えないが、
鋭い推理で知能犯の犯行を暴き、人気を博した。
あのー、ちょっといいですか?
コロンボにそう声をかけられたが最後、
犯人はもう落ちるしかない。
サスペンスの神様、アルフレッド・ヒッチコックは、
「サスペンス」と「スリル」と「ショック」の違いについて、
こう説明している。
乗るべき汽車の時刻に間に合うかどうかと必死に駅に駆けつける。
これがサスペンス。
ホームに駆け上がり、発車間際の列車のステップにしがみつく。
これぞスリル。
座席に落ち着き、ふと考えなおしてみると、
自分が乗るはずの列車じゃなかった、と悟るその一瞬がショック。
夜の長いこれからの季節。
ヒッチコックの映画を観て、ドキドキしてみませんか?