蛭田瑞穂 10年11月27日放送


ミステリーの夜①エドガー・アラン・ポー

アメリカ人作家エドガー・アラン・ポーが
1841年に発表した小説『モルグ街の殺人』。
これが史上初の推理小説と言われる。

今日、推理小説で使われるさまざまなトリックは、
そのほとんどがポーによって発明されたと言ってもいい。

密室殺人、暗号のトリック、
探偵自身が犯人だったというドンデン返し。

探偵の活躍を探偵自身ではなく、
友人役が語るというシャーロック・ホームズでお馴染みの手法も
ポーが最初に使った。

エドガー・アラン・ポー。
彼こそが推理小説の父である。


ミステリーの夜②ヴァン・ダイン

ミステリーの巨匠ヴァン・ダインがつくった、
推理小説を書く上で作者が守らなければならない20のルール。
通称「ヴァン・ダインの二十則」。

たとえば、
「事件の謎を解く手がかりは、
すべて明確に記述されていなくてはならない」。

あるいは、
「探偵は論理的な推理によって
 犯人を決定しなければならない」。

それからこんなことも。
「占いや心霊術、読唇術などで
 犯罪の真相を告げてはならない」。

推理小説とはいわば、作者と読者の謎解きゲーム。
ゲームをおもしろくするには厳格なルールがなければならない。


ミステリーの夜③コナン・ドイル

1882年、スコットランドの若い医者が
眼科を専門とする診療所を開いた。
しかし、客足はさっぱりだった。

暇をもてあました彼は、
小遣い稼ぎのために小説を書き始める。
探偵が主人公の推理小説だった。

小説を書き上げると原稿をいくつかの出版社に送った。
しかし、出版社からはことごとく掲載を拒否され、
数カ月後にようやく採用されたものの、
原稿料はたった25ポンドだった。

その小説が『緋色の研究』。
アーサー・コナン・ドイルのデビュー作にして、
探偵シャーロック・ホームズを生み出した作品である。

まったく、人生には何が起きるかわからない。


ミステリーの夜④シャーロック・ホームズ

かの名探偵シャーロック・ホームズは一度殺害されたことがある。
犯人は誰あろう、作者のコナン・ドイルである。

ホームズの一連の作品によって
人気作家となったコナン・ドイルだが、
彼が本来書きたかったのは推理小説ではなかった。

そこで、ドイルはシリーズに終止符を打つべく、
『最後の事件』という小説を執筆し、
水煙を上げる滝壺の中にホームズを突き落とした。

ところが、事の顛末はドイルの目論見どおりに進まなかった。

シャーロック・ホームズの死に納得のいかない読者から、
抗議の手紙が出版社に殺到する。
その声におされてドイルはホームズの復活を決心するのである。

作者に殺され、読者に命を救われる。
名探偵の人生はじつに波乱に満ちている。


ミステリーの夜⑤フィリップ・マーロウ

作家レイモンド・チャンドラーが生みだした探偵、
フィリップ・マーロウ。

古今東西、さまざまな探偵がいるけれど、
彼ほど魅力にあふれる探偵はいないだろう。

貧しいけれど、誇り高い。
男らしく正義感が強いが、
女性らしい繊細さも持ち合わせている。

そんな彼だけに、粋なセリフがよく似合う。

「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」

「タフでなければ生きて行けない。
 優しくなければ生きている資格がない」

フィリップ・マーロウ。
その名はハードボイルドの代名詞。


ミステリーの夜⑥刑事コロンボ

くたびれた背広に、着古したレインコート。
櫛の通っていないボサボサの髪の毛。
いつも安物の葉巻を持ち歩き、
ところかまわず吹かそうとする。
口癖は「うちのカミさんがねぇ」。

テレビドラマから生まれ、
俳優ピーター・フォークが演じた刑事コロンボ。
風貌は冴えないが、
鋭い推理で知能犯の犯行を暴き、人気を博した。

 あのー、ちょっといいですか?

コロンボにそう声をかけられたが最後、
犯人はもう落ちるしかない。


ミステリーの夜⑦ヒッチコック

サスペンスの神様、アルフレッド・ヒッチコックは、
「サスペンス」と「スリル」と「ショック」の違いについて、
こう説明している。

乗るべき汽車の時刻に間に合うかどうかと必死に駅に駆けつける。
これがサスペンス。

ホームに駆け上がり、発車間際の列車のステップにしがみつく。
これぞスリル。

座席に落ち着き、ふと考えなおしてみると、
自分が乗るはずの列車じゃなかった、と悟るその一瞬がショック。

夜の長いこれからの季節。
ヒッチコックの映画を観て、ドキドキしてみませんか?

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