熊埜御堂由香 10年12月19日放送
恋文代筆業フィッシュ兄弟
19世紀のおわりごろ、パリの街で
小さな芝居小屋の劇作家をしていたフィッシュ兄弟は
食うに困ってある商売を思いついた。
恋文代筆業….
それはのちに彼らをまねて恋文横丁という代筆業者が
机をならべる小道ができたほど、繁盛した。
たとえば、初々しい恋のはじまりに、2通の手紙を用意する。
1通目は、引き裂さかれた紙に、乱れた文字で想いが綴られる。
ああ、この気持ちをどうすれば・・・
そして直後にもう一通の手紙が届く。
今度は上等な便箋に丁寧な文字で謝罪の言葉が綴られている。
誤って、日記の一部を投函してしまいました。破棄してください。
こんな具合に彼らのラブレターには、さまざまな恋の罠が仕掛けられていた。
ここで、彼らが、恋文の効果的な書き出しと結びを
一覧化したリストから、おすすめの締めの句をひとつ。
君がうなじに、接吻の雨。
ちょっと吹き出してしまうほど情熱的な言葉が並んでいて、
再出版すれば、今どきの淡白な男の子たちに、
つけるいい薬になるかもしれない。
おしゃべりな手紙 向田邦子
数々の会話の妙で、ひとを惹きつけてきた脚本家、向田邦子は嘆いた。
男の手紙が、とくに若いひとの手紙が、
おしゃべりになってきた。字や文章だけでは男か女かわからない。
しゃべりすぎの時代を、ホームドラマのせいだど自省する。
さらにメール時代の現代。
中性的なメールが飛び交う。
そっけないと思われると、
みんな気遣いで賑やかな絵文字を散らす。
おしゃべりは虚飾。
沈黙が味わえるようになったとき、
男と女の時間がはじまるのかもしれない。