ブシコーとボン・マルシェ①
世界で最初に生まれたデパート「ボン・マルシェ」。
1874年に完成した新しい建物の中には
1階から天井までが吹き抜けになった巨大なホールがあった。
昼間はガラスの天井から陽の光が降り注ぎ、
夜になると巨大なシャンデリアが、
豪華絢爛たる灯りでホールを照らした。
「ボン・マルシェ 」の創業者アリスティッド・ブシコーは、
パリ万博のパビリオンをヒントにこのホールをつくった。
日常と切り離された特別な空間で買い物を楽しんでもらいたい。
それが彼の狙いだった。
クリスマスが近づくこの時期、
世界中のデパートが華やかに彩られる。
ブシコーの思い描いた祝祭の空間がそこにはある。
ブシコーとボン・マルシェ②
世界で最初のデパート「ボン・マルシェ」の創業者
アリスティッド・ブシコー。
彼には、消費者を豊かにするには、
まずデパートの従業員が豊かでなくてはならない
という考えがあった。
そのため利益はできるだけ従業員に還元し、
無料の社員食堂や独身寮、退職金制度など、
福利厚生を充実させた。
現在もパリに存在する「ボン・マルシェ」の入り口には
「アリスティッド・ブシコーの店」と書かれた
昔ながらの看板がかかっている。
それはブシコーがいかに
従業員に愛されていたかを示す証でもある。
ブシコーとボン・マルシェ③
19世紀のパリ市民にとって、日々の買い物は苦痛であった。
当時はまだ値札というものがなく、
価格はすべて店員との値段交渉によって決められた。
その上、商品を買うまで店を出てはいけないという
暗黙のルールさえ存在した。
やがて「マガザン・ド・ヌヴォテ」と呼ばれる
新しい形態の小売店が生まれ、その状況を劇的に変える。
しかし真の変化はアリスティッド・ブシコーと
その妻マルグリットがつくった世界初のデパート
「ボン・マルシェ」によって起こされた。
オペラ座のように美しい建物。
宮殿のように華やかな館内。
そして、百花繚乱の品ぞろえ。
「ボン・マルシェ」の誕生によって買い物は快楽へと変貌し、
店はモノを売る場から、夢を売る場へと昇華した。
「ボン・マルシェ」、
それはブシコー夫妻が起こした商業の革命だった。
ブシコーとボン・マルシェ④
19世紀の半ば、世界で最初のデパートをつくった
アリスティッド・ブシコーは、
商業の天才であると同時に宣伝の天才でもあった。
当時生まれたばかりの新聞広告に目をつけ、
大量の折り込みチラシをパリ中にばら撒いた。
そのチラシを制作するために、
彼はデパート内に専用の印刷所まで設けたという。
やがて大衆による爆発的な消費社会が来ることを
見抜いていたアリスティッド・ブシコー。
その慧眼には驚くしかない。
ブシコーとボン・マルシェ⑤
19世紀に創業された世界最古のデパート「ボン・マルシェ」。
創業者のアリスティッド・ブシコーは冬のある日、
ひとり物思いに耽っていた。
バーゲン期間が終わった後も、
売り上げを落とさないようにするには
どうすればいいのだろう?
その時、窓の外に降る雪を見たブシコーの頭に、
突然「白」という言葉が浮かんだ。
ワイシャツやシーツなど白い生地を使った商品を
集中的に売り出すというのはどうだろうか。
そう思いついた彼は、売り上げの落ちる2月に
「白の展覧会」と銘打ったセールを大々的におこなった。
店内は白い生地を使ったありとあらゆる商品に包まれ、
さながら白銀の世界と化した。
この「白の展覧会」が、現在も続く
デパートの大売り出しのはじまりである。
もしあの日、窓の外に雪が降っていなかったら、
デパートの大売り出しはなかったかもしれない。
ブシコーとボン・マルシェ⑥
今もパリに存在する世界最古のデパート「ボン・マルシェ」。
創業者のアリスティッド・ブシコーは、
デパートの売り上げの鍵を握るのは女性客だと考えていた。
そのため「ボン・マルシェ」の1階には
女性向けの目玉商品を山積みにし、
女性客の人だかりが自然とできるようにした。
さらに、婦人服や生地などをあえて別々のフロアに配置し、
デパート全体を女性客の活気で溢れるように工夫をした。
現在、多くのデパートの1階には化粧品などの
女性向けの商品が並べられている。
19世紀に生まれたブシコーのアイデアは
こうして今も脈々と受け継がれているのである。
ブシコーとボン・マルシェ⑦
19世紀の半ばに創業された世界最古のデパート「ボン・マルシェ」。
創業者のアリスティッド・ブシコーは12月になると、
おもちゃと本を売り場に並べ、
店中をプレゼント一色に塗りつぶした。
これが現在のデパートでおこなわれる
大規模なクリスマスセールの先駆けといわれる。
さて、もうすぐクリスマス。
あなたのプレゼントはもう決まりましたか?
ブシコーとボン・マルシェ⑧
世界で最初のデパート「ボン・マルシェ」は
もとは小さな商店だった。
1835年にアリスティッド・ブシコーとその妻マルグリットが
「ボン・マルシェ」の共同経営権を買うと、
さまざまな改革を行ない、店を大きく成長させた。
大量に仕入れ安い価格で売る薄利多売方式。
季節のバーゲンセール。
カタログによる通信販売。
これらはブシコー夫妻がつくりだし、
現在でも多くのデパートで行なわれている事業である。
ブシコー夫妻の功績、
それは単に「ボン・マルシェ」というデパートを
つくっただけではない。
デパートという仕組みそのものを発明し、
消費の文化を創造したのである。