坂本和加 11年01月08日放送
粘菌研究の一人者、南方熊楠。
50年間毎日続けた日記には、
ときどき猫も登場する。
熊楠は、大の猫好き。
漫画家 水木しげるが、
「熊」でなく、「猫楠」という
伝記を描いたほど。
留学先では、冬の寒さを
猫を抱いてしのぎ、
帰国後は、猫が妻との縁を
とりもつようなこともあった。
けれど猫の名前は、みなチョボ六。
研究用の粘菌が
チョボ六たちによって
なめくじから
守られたこともあったという。
後に、本人曰わく。
ちょっとしたつづきものより、
予の伝の方が面白かろうと思うが、如何。
アメリカの奴隷解放の父とされる
アブラハム・リンカーンには、
猫好きならではのエピソードがある。
南北戦争時代、
軍の本部に迷い込んだ
3匹の子猫を偶然みつけて、
「猫くん、君たちは猫でよかった」と話しかけ、
その後も母猫のいない
その子猫たちを見かけるたび足を止め、
戦争で息子を失った母親もいるんだから、
君たちも元気を出さなければと
声をかけていたらしい。
ユーモアと深い慈悲と情愛にあふれた
リンカーンは、ホワイトハウスで
4匹の猫と暮らした。
大統領官邸で、
はじめて猫を飼った大統領でもある。
解剖学者、養老孟司先生は、
6才になるオスの
スコティッシュフォールドを
飼っている。名前は、まる。
体重は、まるまると、7キロ。
まるは、鎌倉にある養老先生のお宅で、
猫の営業部長をやっているらしい。
天気のいい日は、縁側にデデンと座って、
ひなたぼっこや毛繕いをする。
それを養老先生が、にこにこと見ている。
そんな、まるの本が、もう2冊も出た。
帯のコピーは、養老先生が書いた。
まるを見ていると、働く気が失せる。
なるほど。それでまるが、営業部長なんですね。
画家でもある作家、赤瀬川源平は
熊谷守一の描いた猫をみたとたん
「猫だ!」と思った。そして、
たいへんなひとがいたものだ。
この画は、神秘に近いと絶賛する。
熊谷守一は、
どんなに貧しくても、
画を描いて金にかえる
ということができない画家だった。
それゆえ
遺した作品は多くはない。
しかし、描きたい想いに忠実だからこそ
画にはにじみ出るような迫力があり、
見る者の琴線に触れるのだろう。
生きものは、ひとと違ってウソがない。
そういって、
とりたてて猫を愛した清貧の画家は、
96才まで生きた。
猫好きは、マゾヒスティック。
そんなイメージをつくったのは、
もしかしたら
谷崎潤一郎かもしれない。
西洋猫をこよなく愛した谷崎は、
わがままで気品があり
媚びることも緩急自在で、
動物の中でいちばん美しいと
猫を絶賛する。
猫を題材にした作品も遺したが、
猫が登場せずとも、
美少女や妖婦に翻弄され隷属する男など
その作風を、
猫と谷崎の関係に見立てると
なるほど腑に落ちる。
さて。では、あなたは。
猫派ですか? 犬派ですか?
世に発表されたときは、
少女漫画として。けれど、
その作品のクオリティの高さから、
男性が読んでも恥ずかしくない少女漫画に
なったものに「綿の国星」がある。
「綿の国星」は
漫画家、大島弓子の代表作で
擬人化された子猫が世の中を学んでいく物語。
30年以上前に発表されたものなのに、
世代を超えたファンがいる。
それはきっと、
美しさやはかなさといっしょに、
世界のほんとうが、宿っているから。
「綿の国星」こそ
クールジャパンではないか。
特に猫好きじゃあないんだ。
けれど昔、子猫を死なせてしまったから。
作家、稲垣足穂は
猫を可愛がる、その理由を
生前そんなふうに言っている。
銭湯にいけば、
なまり節を買ってくる。
書き物の上に猫が座れば、どくまで待つ。
12月半ばに、猫一匹救うために
古井戸に飛び込んだこともあるという。
トラ猫のカアは、
ずいぶん永く、足穂と暮らした。
名作も生まれた。
黒猫のしっぽを切った話
ある晩黒猫をつかまえて
鋏でしっぽを切ると
パチン!
と黄色い煙になってしまった
頭の上でキャッ!
という声がした
窓をあけると、
尾のないホーキ星が
逃げていくのが見えた