2011 年 3 月 6 日 のアーカイブ

蛭田瑞穂 11年03月06日放送


バルガス・リョサ

2010年のノーベル文学賞を受賞した
ペルー出身の作家バルガス・リョサ。

『都会と犬ども』、『緑の家』、『世界終末戦争』などの
著書で知られるリョサは、作品を通じて
社会の偽善や腐敗を告発し、南米の多様な文化を描いてきた。

バルガス・リョサをノーベル文学賞に選考した理由として、
スウェーデン・アカデミーは次のように発表した。

権力の構造を明確に描き、
個人の抵抗、反抗や敗北を鋭く表現した。


サミュエル・ベケット

舞台の上に男がふたり立っている。
ふたりはゴドーという人物を待っている。

劇作家サミュエル・ベケットが発表した戯曲
『ゴドーを待ちながら』。

ふたりの男はしかし、ゴドーという人物を知らない。
会ったこともない。来るかどうかもわからない。
なぜふたりはゴドーを待ち続けるのか。

この戯曲によって、ベケットは
「不条理劇」というスタイルを完成させ、
のちの演劇界に多大な影響を与えた。

文学や戯曲の分野で新しい表現方法を切り拓いた。

その理由により、サミュエル・ベケットは
1969年のノーベル文学賞を受賞した。


ガルシア・マルケス

コロンビアの作家ガルシア・マルケスが
1967年に発表した小説『百年の孤独』。

南米の架空の町マコンドを舞台に、
町を開拓したブエンディア一族の繁栄と滅亡を描いた100年の物語。

チョコレートを飲んで空中浮遊する神父。
遠く離れた場所からテレパシーで手術をする医者。
4年と11カ月も降り続く雨。

ブエンディア一族の歴史が、
次々と繰り出される奇想天外なエピソードによって
神話的に語られる。

日常と非日常が混ざり合う「マジック・リアリズム」
という手法を巧みに使った小説は各国でベストセラーになり、
世界中でラテンアメリカ文学ブームを巻き起こした。

『百年の孤独』の発表から15年後、
スウェーデン・アカデミーはガルシア・マルケスに
ノーベル文学賞を授与する。その選考の理由は、

幻想と現実を結びつけ、ひとつの大陸に生きる葛藤を
豊かな想像の世界で表現した。

というものだった。


パブロ・ネルーダ

1971年のノーベル文学賞を受賞した
チリの詩人、パブロ・ネルーダ。

彼にとってはこの世界に存在するもの
すべてが詩作の対象だった。

チリの美しい自然。女性のからだ。妻への愛。政治。戦争。
パンを讃える詩をつくったこともある。

同じく南米出身の小説家ガルシア・マルケスは、
ネルーダを「詩のミダース王」と表現した。

ミダース王とは触るものすべてを黄金に変える力を持つ
ギリシャ神話の登場人物。

目に触れるものすべてを詩に変えた。
ガルシア・マルケスはネルーダをそう讃えたのである。


トーマス・マン

20世紀の文学界の巨匠トーマス・マンが
1901年に発表した小説『ブッデンブローク家の人々』。

商人の一族、ブッデンブローク家の4代に渡る繁栄と没落を描き、
生まれたばかりの近代市民社会と、
そこに生きる人々の姿をユーモアとアイロニーを交えて表現した。

のちにトーマス・マンはノーベル文学賞を受賞するが、
その理由は、

現代の古典として広く知られる偉大な小説、
『ブッデンブローク家の人々』に対して。

というものだった。

作家本人の功績を讃えて授与されることの多いノーベル文学賞が、
特定の作品を評価することは珍しい。

しかも『ブッデンブローク家の人々』は、
トーマス・マンが執筆した事実上初めての長編小説。

弱冠25歳の時の作品であった。


ロマン・ロラン

ノーベル賞作家ロマン・ロランの代表作『ジャン・クリストフ』。

貧しい音楽一家に生まれた主人公ジャン・クリストフが、
人間や芸術家としての真実を追求しつづける物語。

傷つきやすくも、闘うことを決してやめない
ジャン・クリストフの不屈の生涯を描き、
人間のあるべき姿を示したロマン・ロラン。
彼は一生を通じて、理想主義的ヒューマニズムを表現した。

『ジャン・クリストフ』を書き上げたあとで、
ロランはこう記している。

 今日の人々よ、若い人々よ、今度はきみたちの番だ!
 われわれのからだを踏み台として、前進したまえ。
 われわれよりも、さらに偉大に、さらに幸福になるのだ。


ウィリアム・フォークナー

『響きと怒り』、『八月の光』などの作品で知られる、
アメリカ人作家ウィリアム・フォークナー。

自らの出生地であるアメリカ南部を
小説の題材として繰り返し取り上げ、
土地の因習や人間の深い業を描き続けた。

アメリカ現代小説に対する、強力かつ独創的な貢献が評価され、
1949年にフォークナーはノーベル文学賞を受賞する。

その文学は後世の作家たちにも大きな影響を与えた。
同じくノーベル文学賞したガルシア・マルケスも、
「フォークナーを父として殺すことが自分の文学観だった」
という表現でフォークナーの偉業を讃えている。


ヘルマン・ヘッセ

作家ヘルマン・ヘッセの代表作『車輪の下』。

エリートの集まる神学校に入学した主人公ハンスが、
詰め込み教育と寄宿舎生活に疲れ、学校から脱走するという、
少年の苦悩と挫折を描いた物語。

主人公の少年時代は、作者自身の少年時代とほぼ重なる。

宣教師の父親の仕事を継ぐため、
14才で神学校に入学したヘッセはわずか半年で学校から逃げ出す。
その後、職を転々とし、自殺未遂も起こした。

作家としてデビューするまで長い苦難の時期を過ごしたが、
彼には「詩人になるか、さもなくば何者にもならない」という
強い決意があった。

のちにノーベル文学賞を受賞したヘルマン・ヘッセ。
彼はこんな言葉を残している。

 過ちも失敗も多かった。だが、後悔する余地はない。

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