中村直史 11年03月26日放送
「裸の島」「午後の遺言状」など、
世界に誇る作品を送り出してきた
映画監督、新藤兼人(しんどうかねと)。
彼には、師と仰ぐひとりの映画監督がいた。
その名は溝口健二。
巨匠と呼ばれるその映画監督の人となりを描きだそうと、
新藤は関係者にインタビューを重ね、それを一本の映画にする。
映画に入りきらない分は、一冊の本となった。
タイトルは「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」。
女優やカメラマンなど
親交の深かった36人の証言から
浮かび上がる溝口健二像は、一言では言い表せない。
崇拝され、恐れられ、親しまれ、嫌われ、喜ばれた。
そんな、一言では言い表せない人だったからこそ、
型にはまった、安易な人間の描き方を決してよしとはしなかった。
溝口はこんな言葉を残している。
悲しくて滑稽で、それでほほえましくて、しかもそれでいて
どこか腹だたしい話を、その人間を通してまるごと描くんだ。
そうして撮られた溝口のフィルムに、
若き日の新藤兼人が見たものは、
「映画」ではなく
「真実としかいえないもの」だった。