三島邦彦 11年4月16日放送
「チャップリン」と聞いた時に浮かぶあの顔。
真っ白な顔に口ひげを生やし、だぶだぶズボンに小さな上着、
大きな靴をはいてステッキを持つあの姿。
その名も、放浪紳士チャーリー。
自らが映画の中につくりあげた
このキャラクターをチャップリンはこう説明する。
小さな口ひげは虚栄心。
だぶだぶなズボンは、人間の不器用さ。
大きなドタ靴は貧困の象徴。
窮屈な上着は貧しくても、品よく見せたいという
必死のプライドを表してるんです。
人がいちばん笑うものは、人間らしさ。
いちばん泣くのも、人間らしさ。
チャップリンはそのことを誰よりも知っていた。
同じ年の同じ月に生まれた二人は、どこか顔も似ていた。
チャップリンとヒトラー。
誰よりも人間を愛し、映画を通じて世界にその愛を伝えていたチャップリンと、
誰よりも人間を憎み、暴力を通じて世界にその力を誇示したヒトラー。
チャップリンにとってヒトラーは、どうしても無視ができない存在だった。
1939年、ヒトラーのポーランド侵攻のニュースを聞いたチャップリンは、
妻であり女優のポーレット・ゴダードを主人公にした映画を撮る計画を中止し、
『独裁者』という作品を制作する。
ヒトラーを批判し、馬鹿にするには言葉が必要だと考えたチャップリンは、
かたくなに守り続けてきたサイレントを捨て、
初めて台詞を映画に取り入れた。
そうして、暴力を否定し人間の愛を訴える、
映画史に残る6分間のスピーチが生まれた。
他人の幸福を念願としてこそ生きるべきである。
お互いににくみあったりしてはならない。
世界には全人類を養う富がある。人生は自由で楽しいはずである。
その作品の難解さでいつも世界を戸惑わせるフランスの映画監督、
ジャン=リュック・ゴダール。
映画研究家でもある彼は、チャップリンをこう評した。
彼はあらゆる賛辞を超えたところにいる。それは、最も偉大な映画作家だからだ。
子どもにも、大人にも、ゴダールにも。
チャップリンは、笑われ、愛され、尊敬された。