熊埜御堂由香 11年6月19日放送
3 友達について 山口瞳と向田邦子
1980年、直木賞、選考会。
はじめて選考委員になった、山口瞳は
先輩作家たちの前で思いきって、言った。
向田邦子はもう、51歳なんですよ。
そんなに長くは作家として
書き続けられないんですよ。
選考委員は一同、驚いた。
え?50代?もっと若く見えるぞ?
上手いけど、小味だ、
小説家としては、駆けだしだ、
という一部の反対がふっとゆらいで
向田は、直木賞を受賞した。
山口は受賞の記者会見で、
向田邦子さんは私より小説が上手です、
と笑いをとった。でも、本心だった。
その後も、彼女におせっかいなアドバイスを続けた。
例えばこんな風、「あ・うん?そんなのダメだ。
タイトルは一度でおぼえられる簡単なものにしろ」
そのたびに、向田は微笑みながら聞いていた。
向田邦子が、飛行機事故にあった通夜のあと
山口瞳は仲間と軍歌、「戦友」を歌った。
気づいたらひとりで、声をはりあげて歌っていた。
モノを書く、という戦いを生き抜く。
そういう覚悟でふたりは結ばれていたのだ。
4 友達について やなせたかし
アンパンマンの作者、
やなせたかしは言った。
ぼくらはしょせん
罪の子で
完全なひとはひとりもいない
もしいたとすれば友にしたくない
アンパンマンは、こげたマントで、
自分の顔を食べさせては、パワー不足で失速して、
なんだか、少しかっこわるい。
けれど、決してくじけない。
そうして、彼は
「子どもたちのヒ―ロ―」ではなくて、
ともだちになっていったんだ。