エディ・タウンゼント1
昭和の日本ボクシング界に
伝説のトレーナーがいた。
彼の名前は
エディ・タウンゼント。
40才を過ぎてから日本にやって来た彼は
片言の日本語で世界チャンピオンを
幾人も育てあげる。
彼はあっけないほどあっさりと
タオルを投げ入れることで
有名だった。
まだ闘えたのに、と詰め寄る
報道陣たちにエディはこう諭す。
「ボクシング辞めた後の方が長いの。
誰がそのボクサーの面倒を見てくれるの?
無事に家に帰してあげるのも私の仕事。」
一瞬の未練が
一生の後悔になる。
エディは人生を
よく知っている。
エディ・タウンゼント2
殴って強い方が勝つ。
ボクシングほど
シンプルで残酷なスポーツはない。
世界チャンピオンを幾人も育て上げた
伝説のトレーナー、エディ・タウンゼント。
彼は言う。
「勝った時には友達おおぜい出来るから
私はいなくてもいいの。
誰が負けたボクサー励ますの?
私は負けたボクサーの味方。」
ボクシングほど
シンプルで残酷なスポーツはない。
そして
愛のあるスポーツもない。
エディ・タウンゼント3
日本ボクシング界における
伝説のトレーナー、
エディ・タウンゼント。
初めて育てた世界チャンピオン、
藤猛との出会いは、ちょっとした奇跡だ。
職もなくお金もなくただ
家でごろごろしていた藤。
そんな藤が
たまたまテレビのボクシング中継で
声を枯らす白人のセコンドを見かける。
それは紛れもなく
近所でよく遊んでくれた
エディおじさんだった。
藤はすぐに
エディのもとを訪れ
弟子入りする。
たまには
暇も大事ということ。
エディ・タウンゼント4
日本ボクシング界における
伝説のトレーナー、
エディ・タウンゼント。
彼が育てた選手の中に
カシアス内藤というボクサーがいる。
「今まで見た選手の中で一番素質がある。
でも、最後に打つ勇気がない。」
そうエディが語るように
内藤はあまりある才能を持ちながら
最後のところで非情になりきれず
世界タイトルを逃し続けた。
しかし、いや、だからこそ
みんなに愛された。
彼は小説の主人公となり、映画のモデルとなり
歌謡曲にも歌われ、その歌は大ヒットする。
完璧じゃないから
余計にかわいい。
それはエディも同じだったようで
弟子の中でも内藤だけは我が子のように
「ジュン」とファーストネームで呼んでいた。
エディ・タウンゼント5
日本のボクシング界に
世界チャンピオンを幾人ももたらした
伝説のトレーナー、
エディ・タウンゼント。
彼の指導法はそれまでの
根性論一色だった
ボクシング界の常識を
くつがえす。
エディは決して手をあげない。
ほめてのばす。
「試合で殴られるのに
どうしてジムに帰ってきてまで
殴られなくちゃならないの」
常識をくつがえした
エディの方が
よほど常識的だった。
エディ・タウンゼント6
日本のボクシング界
伝説のトレーナー、
エディ・タウンゼント。
彼に育てられたボクサーの一人、
田辺清がエディと初めてジムで会ったときの話。
エディは入ってくるなり
田辺の肩をポンとはたく。
「ゴミがついてるよ」
見るとゴミなんてついていない。
田辺ははっとした。
それだけ自分のことを
注意深く見ていると
エディは言いたかったのだ。
信じられるかどうかは
出会った瞬間に決まる。
エディ・タウンゼント7
日本のボクシング界に
世界チャンピオンを幾人ももたらした
伝説のトレーナー、
エディ・タウンゼント。
彼の最後の
弟子だった井岡弘樹の
初防衛戦。
エディは癌におかされた体をおして
会場まで出向き、
エールを送った直後に昏睡。
井岡の勝利を知った5時間後に
息を引き取る。
出来すぎた話だ。
しかしその出来すぎた話に
人は心を動かす。
亡くなってから20年以上たった今。
井岡はこう言っている。
「生まれ変わっても
エディさんに教わりたい」