「夏」のはなし 淀屋辰五郎
氷も電気もなかったころに
粋な涼み方を考えだした男がいる。
江戸前期の豪商であり遊び人でもあった
五代目淀屋辰五郎。
その広大な邸宅の夏座敷には
金魚が泳ぐ大きな水槽を天井にとりつけ、
それを下から眺めて、暑気払いをしたという。
それから数十年
丸い小さなガラスの器に金魚を泳がせ
風鈴のように軒先に吊るす金魚玉が
庶民の間にもひろまったのだが
ガラスの涼しさと金魚の涼しさを組み合わせるアイデアは
淀屋辰五郎のおかげといえそうだ。
「夏」のはなし 清少納言
清少納言も、かき氷を愛していた。
『枕草子』の中の、「あてなるもの」。
上品なもの・良いものを挙げるくだりで、
こんな記述がでてくる。
削り氷にあまづら入れて、
新しき金鋺(かなまり)に入れたる
金属製の器に盛られた、削り氷。
その上に、アマチャヅルの茎の汁をかけた、
平安時代のかき氷。
氷の入った金属の器を手に持つと
当時ならそれだけで汗が引くほど冷たかっただろう。
クーラーなんてなかった夏の「女子の愉しみ」は、
現代にもしっかり、受け継がれている。