魔性の女たち/モンテスパン夫人
朕は国家なり、と言ったのは
フランスの太陽王ルイ14世だが、
その輝きのまわりには、野心に飢えた女が集まった。
中でも、モンテスパン夫人は
美貌と鋭い知性に恵まれていた。
無邪気な笑顔を見せたかと思えば、
ときに驕慢で意地悪な振る舞いをする。
今でいう小悪魔的な存在だ。
そして国王の愛人という地位を守るために
黒ミサと呼ばれる悪魔信仰にのめり込む。
その事実を知ったルイ14世は、
恐れをなして彼女を遠ざけてしまうのだが。
行き過ぎる野心は、過ちを生む。
魔性の女たち/メアリ・スチュワート
メアリ・スチュワートは、
生後六日でスコットランド女王、
五歳でフランス王太子妃、
十六歳でフランス王妃になった。
だが夫は病気で亡くなり、
十七歳で未亡人となる。
そして再婚相手の男を愛人と一緒に殺害し、
それがもとで王位を追われ、
幽閉されたあともエリザベス女王殺害を企て、最後は処刑されてしまう。
断頭台に立つときに着ていた衣装は、豪華そのものだったという。
レース飾りのついた純白のベール、
貂(テン)の毛皮をあしらった黒ビロードの上着と黒のマント、
そして深紅のペチコート。
経歴も、散り際も、派手な女がいた。
魔性の女たち/柳原白蓮
人妻の恋愛が罪となる時代。
歌人、柳原白蓮は結婚という制度に翻弄された。
最初に嫁いだのは十六歳のとき。
なんの取り柄もなく我儘な男との生活は五年で終わる。
二十七歳のときに再婚した相手は、
九州の炭鉱王と言われた伊藤伝右衛門。
妻と妾が同居する複雑な女性関係に嫌気がさした。
三十五歳のときに運命の人、宮崎龍介と出会う。
そして、ある計画を実行する。
「私は今あなたの妻として最後の手紙を差し上げます。」
朝日新聞の朝刊には、
白蓮から伊藤伝右衛門への絶縁状が掲載された。
全国版の三行半とは、恐ろしい。
魔性の女たち/シンプソン夫人
イギリス国王エドワード八世が心を奪われたのは、
平民で二度の離婚歴があるシンプソン夫人だった。
彼女が持っていたのは、
つつましやかな物腰と美貌、
そして大いなる野心。
若いうちから空軍将校や外交官を相手に
数々の恋愛沙汰を引き起こし、
ついにはイギリス王室へまで食い込んでいく。
「どうか、わかってほしい。
私が愛する女性の助力も支えもなしに、
王位を全うすることはできないのです」
エドワード八世は、ラジオ放送でこの言葉を残し
わずか十ヶ月あまりの在位で
イギリス国民に別れを告げた。
王位を捨てさせた女と、
全てを捨ててしまった男。
その夢の果てとは。
晩年は、退屈で単調な毎日だったそうだ。
魔性の女たち/マリア・ルイザ
無類に人がよく、平和ボケした亭主のもとでは、
女は悪妻になりやすいのか。
スペイン王妃マリア・ルイザは
国王との間に十一人の子をもうけながら、
男漁りを繰り返した。
そして二十一歳の美青年、ゴドイと出会う。
凡庸な国王、カルロス四世。
その王妃、マリア・ルイス。
そして、若く野心に溢れたゴドイ。
マリアの世界には、この三人しかいなかった。
「私たちの関係は完璧そのもので、地上における三位一体なのです」
やがてフランス革命が、小さな楽園を崩していく。
魔性の女たち/阿部定
阿部定は、かの有名な猟奇事件のあとに
こんな言葉を残している。
「私のやったことは男に惚れぬいた女ならば、
世間によくあることです。ただ、しないだけです」
横浜の置屋に売られ、
娼婦となり全国を転々として
ようやく見つけたひとつの愛。
それを誰も笑うことなんてできない。
魔性の女たち/マタ・ハリ
オランダの片田舎で生まれた少女は、
黒々とした髪とエキゾチックな瞳を持っていた。
19歳で結婚しジャワ島に移り、
離婚してパリに戻ってくると
その女は妖艶なダンサーに生まれ変わる。
名前は暁の太陽を意味する、マタ・ハリ。
美しい娘の魅惑的な踊りは、すぐに話題になった。
1917年、第一次世界大戦のさ中、
イギリス海軍の諜報機関は、マタ・ハリがスパイであることをつきとめる。
コードネーム、諜報員H21。
本当にスパイ活動をしたのかどうか、その確証はない。
ただ、情事を重ねた相手が軍人ばかりだったのが
彼女を不利な立場に追いやった。
マタ・ハリが処刑されるとき、いくつかのエピソードが残っている。
あまりの美しさで、兵士が銃の引き金を引くことができなかった。
銃殺隊に投げキッスを贈った、など。
どれもこれも、美しすぎるスパイが生んだ
尾ひれのついた伝説にすぎない。