ある食通の美学/北大路魯山人
料亭で、椀の汁を1口すすり、
「うま過ぎる」といって、顔をしかめている
男が居る。食通、北大路魯山人である。
誰が食しても「さすが」とうなる料亭自慢の逸品。
しかしあろうことか魯山人はお湯をドボドボ注ぎ
味を薄く変えてしまった。
一同、唖然。
一人魯山人だけ「これでよし」との顔。
しかしてその後、真意は明らかとなる。
目一杯うまさを突き詰めてしまうと、食事全体では
舌がもたれ、うまかったという気持ちが残らない。
だからこそ。
人生、食事のできる量は決まっている。
だからこそ一食一食にとことんこだわる。
美学を貫き通す偉人の振るまい。
ある批評家の美学/北大路魯山人
いいものを身辺におけ。
さもなくば人物はできあがらない。
そう言うのは美術家であり美食家でもある
北大路魯山人。
その批評は時の文化人にも及ぶ。
夏目漱石の書斎をみれば、
火鉢、机、硯、文房具の類をして低級と評し、
芥川龍之介の持ち物は、ただ一点
骨董の織部を所有すること褒めた。
樋口一葉の程度の良い机は女性らしいと
やや満足げだが、
大町桂月にいたっては下宿同然、論外と切り捨てた。
では当の本人、魯山人の身の周りに
あったのは何なのか。
例えば庭前に半分埋めて金魚鉢としている鉢がある。
よく見れば、明の時代の赤絵水禽文の大鉢。
その値段を評価すれば数千万円ともなるらしい。
人に意見するならば、まず自らが行う。
その姿勢の中にも魯山人の美学があった。
ある研究者の美学/ドクター中松
発明家、ドクター中松は
食に並々ならぬこだわりを持っていた。
しかしそのこだわりとは、
味ではなく栄養に関する考察。
34年にわたり自分の食事全てを記録し、
身体の具合をメモしていった。
そしてついに発見されたのが「3日後理論」。
食したものの影響が3日後身体に表れることを
身をもって発見したのだ。
人生全てが、実験と発見。
それこそ発明家の美学と言える。