2011 年 9 月 18 日 のアーカイブ

岡安徹 11年9月18日放送



ある食通の美学/北大路魯山人

料亭で、椀の汁を1口すすり、
「うま過ぎる」といって、顔をしかめている
男が居る。食通、北大路魯山人である。

誰が食しても「さすが」とうなる料亭自慢の逸品。
しかしあろうことか魯山人はお湯をドボドボ注ぎ
味を薄く変えてしまった。

一同、唖然。
一人魯山人だけ「これでよし」との顔。

しかしてその後、真意は明らかとなる。

目一杯うまさを突き詰めてしまうと、食事全体では
舌がもたれ、うまかったという気持ちが残らない。
だからこそ。

人生、食事のできる量は決まっている。
だからこそ一食一食にとことんこだわる。
美学を貫き通す偉人の振るまい。



ある批評家の美学/北大路魯山人

いいものを身辺におけ。
さもなくば人物はできあがらない。
そう言うのは美術家であり美食家でもある
北大路魯山人。

その批評は時の文化人にも及ぶ。

夏目漱石の書斎をみれば、
火鉢、机、硯、文房具の類をして低級と評し、

芥川龍之介の持ち物は、ただ一点
骨董の織部を所有すること褒めた。

樋口一葉の程度の良い机は女性らしいと
やや満足げだが、

大町桂月にいたっては下宿同然、論外と切り捨てた。

では当の本人、魯山人の身の周りに
あったのは何なのか。

例えば庭前に半分埋めて金魚鉢としている鉢がある。
よく見れば、明の時代の赤絵水禽文の大鉢。
その値段を評価すれば数千万円ともなるらしい。

人に意見するならば、まず自らが行う。
その姿勢の中にも魯山人の美学があった。



ある研究者の美学/ドクター中松

発明家、ドクター中松は
食に並々ならぬこだわりを持っていた。

しかしそのこだわりとは、
味ではなく栄養に関する考察。

34年にわたり自分の食事全てを記録し、
身体の具合をメモしていった。

そしてついに発見されたのが「3日後理論」。

食したものの影響が3日後身体に表れることを
身をもって発見したのだ。

人生全てが、実験と発見。
それこそ発明家の美学と言える。

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渋谷三紀 11年9月18日放送



ある脚本家の美学/向田邦子

脚本家、向田邦子の家では、
遠足の弁当には海苔巻き、と決まっていた。

朝になり、母が海苔巻きを切り分け始めると、
邦子は途端に落ち着きをなくす。
海苔巻きの切れ端が、大好物だったのだ。

かまぼこも、伊達巻も、羊羹も、
邦子はとにかく、切れ端が好き。

切れ端好きの理由を、
彼女はこんな言葉で語っている。

なんだか貧乏たらしくて
しんみりして、うしろめたくていい。

不ぞろいで、不恰好で、いとおしい。
切れ端も、にんげんも、
邦子の目には、そう映っていたのかもしれない。



あるキャラクターの美学/キティちゃん

右耳に赤いリボンの白いネコ。
日本を代表する人気キャラクター、
キティちゃん。

電車で、会社で、学校で、
毎日どこかしらで、
私たちはキティちゃんに出会う。

さらに旅先の土産物屋には、
マリモキティになまはげキティにシーサーキティと、
想像をこえたさまざまな全国ご当地キティ。

世界的に有名な宝石ブランドからは、
100万円以上もする高級クリスタルキティ。

お菓子メーカーの広告では、人間になったキティ。

活躍はとどまることを知らない。

しかし、どんな風に姿を変えても
キティはキティとわかるのが、強いキャラクターの証。

ブレない自分があれば、
どんな変化にも「ハロー」と言えるのかなあ、
キティちゃん。

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宮田知明 11年9月18日放送



あるスポーツ選手の美学/三浦知良

日本では、引き際のいさぎよさを
よく「美しい」とされる。

その考え方の逆、
つまり「やめない」ことに美しさを見出す人、
キングカズこと、三浦和良。

余力を残して辞めていく選手は多い中で、
44歳になってもカズは全くそのそぶりを見せない。

4年前、テレビ番組で、
「いつまでやるのか」という質問に対して、
彼はこう答えている。

できたら還暦までやりたいんだけどね。

3月29日のチャリティーマッチでのゴールを見せられると、
あのときの言葉は、あながち冗談でもないかもしれない。



ある毒舌家の美学/有吉弘行

毒舌にも、美学がある。

平成の毒舌王、有吉弘行曰く、
「悪口はいいけど、陰口はダメ」。
その真意とは。

僕は絶対に本人のいないところで悪口は言いません。
陰口をたたけば周りの人から
「こいつは俺の事もどこかで悪く言ってる」と
思われて自分の評判が下がる。陰口は自分に返ってくる。

これは、毒舌キャラとして芸能界でやっていくための、
彼独特の美学なのかもしれない。

でも、
むしろ毒舌でも何でもない普通の人にとって、
この考え方に学ぶところは多い。



あるジャーナリストの美学/池上彰

いい質問ですね!でおなじみの
ジャーナリスト・池上彰。

分かりやすい説明に定評のある彼にも、
一つの美学がある。
それは、説明するときに、
「自分の個人的な意見は差し挟まない」ということ。

NHKを辞めてすぐの頃、民放の番組の
コメンテーターとして出演したとき、よく言われた言葉。
「あなたの意見を聞かせてください。」

視聴者からすると何でもない質問だが、
池上には違和感があった。

それは、32年間のジャーナリストとしての生活で、
「自分の意見は一切出すな」
「客観報道に徹しろ」と教えられてきたから。

誰かのバイアスのかかった意見よりも、
公平な視点での説明の方が人は納得しやすい。

そう思ってテレビを見ると、コメンテーターの
自分勝手な意見が、なんと多いことか。

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