三島邦彦 12年5月13日放送
Jeremy Brooks
カクテル・ストーリーズ/開高健のマティーニ
作家、開高健にとってカクテルは、
空想を楽しむ飲み物だった。
たとえば、マティーニのグラスの中のオリーブの実。
丸いオリーブの中に四角いパプリカトマトが入っている。
種を抜いたオリーブの丸い穴に、
どうやって四角いパプリカトマトをすき間なく詰めるのか。
一粒一粒手作業をしていたら大変。
大量生産をする方法があるのだろうか。
マティーニのグラスを傾けながら、ああでもないこうでもないと、
思いを広げ、妄想を楽しんだ。
そのことをエッセイにして発表すると、
正解を教えましょうと、とある会社から小豆島の工場へ招待された。
しかし、開高健はこれを断る。
せっかくおれは、ああでもあろうか、こうでもあろうかと、突飛なことを考えて
遊んでいるんだから、これは壊さないでくれ。
カクテルグラスの中には、愛すべき謎がある。
正解は、さほど重要なことではない。
カクテル・ストーリーズ#3
「開高健のマティーニ」