熊埜御堂由香 12年5月20日放送
さんたす
植物の話 大江健三郎の生まれた森
なぜ学校に行かなければならないのだろう。
そう思い、10歳の少年は学校の裏門を抜け森へ入って
毎日を過ごしていた。
ノーベル賞作家大江健三郎は愛媛県の森林の村で生まれた。
大江が不登校になった年。日本は戦争に負けた。
世の矛盾を敏感な少年は感じていた。
森の中で樹木の性質を学べばひとりで生きていける。
林業を営む父の姿をみてそう考えた。
しかしある日、
森で強い雨に打たれ生死の境をさ迷う。
僕はもう死ぬの?うなされ尋ねると
母親がこう答えた。
私がもういちど産んであげるから、大丈夫。
わけがわからないと思いながらも
静かな心になった少年はこんこんと眠り
回復したら自然と学校に通いはじめた。
それ以来こう思うようになった。
今生きている自分は母にもういちど産んでもらった
新しい子供なのではないか?
少年は森で、もういちど生まれた。
そして森をでて社会の中で生きはじめたのだ。