greenkozi
夫婦のはなし 高山なおみとスイセイ
みいなんかより
料理がうまいひとは
ごろごろおるじゃろう?
料理研究家高山なおみの夫スイセイは
雑誌で人気絶頂期の妻のみいにひょうひょうと言った。
その言葉は、妻の人柄も仕事もまるごと理解した
夫にしか言えない最高のエールだ。
高山の力が抜けてリラックスした
優しい味のレシピは
今日も夫婦の食卓から生まれる。
C Simmons
夫婦のはなし 小川糸
作家・小川糸は、
いつの頃からかなんとなく、
ペンギンと暮らしてみたいと
思うようになっていた。
鳥なのに空を飛べなくて、
ぽってりとしたおなかが愛らしい、
そんなペンギンと。
でもじっさい、
東京でペンギンと暮らすのは、むずかしい。
そう思っていたら、
ペンギンによく似た生き物を、
すぐ近くでみつけた。
いっしょに暮らす、歳の離れた夫。
こうして小川の夫は、
ペンギンになってしまった。
もうすぐ、ペンギンが帰ってくる。
お魚が食べたいらしいので、
マグロのヅケと、酢で〆た鯵を用意した。
きょうも小川は、
自分と、そしてペンギンのために、
楽しそうに、料理をつくる。
夫婦のはなし 向井千秋と向井万起男
両肩に力を入れて生きている女性をみると、
おちょくり、からかいたくなる。
慶應の大学病院で働く医師・向井万起男には、
そんなくせがあった。
その彼が、男まさりでよく笑う、
内藤千秋という後輩をからかった。
彼女はいつしか万起男の親友になり、
一番の親友が女なら、そんじゃ、結婚するしかないな、
という感じで結婚を決めたころ、
内藤千秋は、宇宙飛行士に選ばれた。
日本初の女性宇宙飛行士・向井千秋である。
宇宙を目指しひとりでどんどん進んで行く千秋は、
長い別居生活もいとわない。
こんな妙な女と結婚したのも、運命。
万起男も観念した様子だった。
しかし千秋は、万起男の性格をよくわかっていた。
マキオちゃんは寂しがり屋だから、ひとりで生きてなんていけないって。
マキオちゃんは再婚しなきゃだめよ。
1994年7月8日、
いつもの明るい笑顔で宇宙に飛び出した千秋。
発射場の特等席には、
彼女のミッション成功を真剣に願う、万起男の姿があった。
seamusiv
夫婦のはなし アマドゥとマリアム
アフリカ、マリを代表するデュオ。
アマドゥ・エ・マリアム。
ギターを担当する夫のアマドゥは、16歳の時に。
ヴォーカルを担当する妻のマリアムは、5歳の時に光を失った。
2人は言う。
僕らは違う地平線、他の国にある音楽を一緒に唄うのが好きなんだ。
2人で音を奏でるとき、その目には、
2人にしか見えない世界が、広がっているに違いない。
のりりん
夫婦のはなし 水木しげると武良 布枝
お見合いから結婚式まで、わずか5日。
夫の特技は自由自在におならをすること。
税務署員に疑われるほどの、わずかな収入。
とっておきの御馳走は、腐りかけの黒いバナナ。
結婚してまでそんな生活をしたいという女性は、まずいない。
武良 布枝。(むら ぬのえ)
夫の名は、水木しげる。
上京した布枝は、水木のあまりの貧乏生活に驚いた。
見合いのときは、「東京でそれなりの暮らし」とウソをついていたこの男。
夫として、このまま付いて行って大丈夫なのだろうか。
正直言って、心配だった。
それでも、ひたすら机に向かって漫画に打ち込む姿。
その背中だけは、信じられた。
布枝は言う。
自分自身に恥じない、その意気込みの、迫力たるやなかった。
『俺はこれで生きるしかない』という覚悟が伝わってきて、
その姿を思うと、いまでも胸が熱くなります。
どんなときでも夫を笑顔で支える妻は頼もしい。
だが、支えたいと思える夫であるか。
それも大事な、夫婦の秘訣。
Saperaud
夫婦のはなし 辻邦生と辻佐保子
辻邦生(つじくにお)は学生時代に恋をして、
後の佐保子(さほこ)夫人と結婚した。
夫婦でパリに留学したのち、
夫は文学賞を受賞して小説家となった。
妻は美術史を研究し、学者になった。
辻邦生の小説が、独自の世界観を持ちながらも
歴史的背景がしっかりしているのは
妻・佐保子の存在あってこそだった。
ふたりで作り上げた小説は、夫婦にとって
子どものようなものだったのかもしれない。
なにしろ、辻邦生の代表作「反教者ユリアヌス」などは
夫婦の間で「ユリちゃん」と呼ばれ
愛されていたというのだから。
夫婦のはなし トーマス・フラー
結婚前には両目を大きく開いて見よ。
結婚してからは片目を閉じよ。
いつだったか、友人の披露宴のスピーチで
耳にしたこのフレーズは、
イギリスの神学者、トーマス・フラーの名言だ。
新郎新婦には、まだわからないかもしれないが。
大目に見るという愛情こそが、
夫婦の関係を、深く、長く、おおらかなものにしてくれる。
Hunter-Desportes
夫婦のはなし 田辺聖子とカモカのおっちゃん
大作家であり、いくつになっても女の子、田辺聖子。
結婚は38のとき。
お相手は4人の子どもがいる開業医、
カモカのおっちゃん。
大家族の中で、原稿書いて、家事をして。
それでも1日の終わりに
おっちゃんと、お酒とおしゃべりを楽しんだ。
こうこうやろうと思ったけど
うまいこといかんかった。
女の子の田辺の肩を、
男の子のおっちゃんがたたいてくれた。
36年連れ添ったおっちゃんは、2002年に他界。
病院のベッドのわきで
そんなつもりはないのに涙を流す田辺に、
おっちゃんは一語一語くぎりながら言ったという。
かわいそに。ワシは あんたの。味方やで。
なんで五七五?と涙の合間に笑いがこぼれる。
あんたの味方。
それはきっと、愛より深い、夫婦のきずな。