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レイ・ブラッドベリ「「愛するものへの言葉」
2012年6月6日レイ・ブラッドベリが亡くなった。91歳。
アメリカで最も名高い作家のひとりだ。
代表的な作品は『タンポポのお酒』、『火星年代記』、
『華氏451度』、『何かが道をやってくる』。
彼は未来を描く時、テクノロジーを細かく描写することはなかった。
自動車を運転せず、飛行機を嫌い、テレビもほとんど見ない。
2009年のインタビューで、インターネット、電子書籍に
痛烈な言葉を浴びせている。
この間、ヤフーのCEOが電話してきて、
インターネットに発表する小説を書いてくれと
言われたんで、バカ言えと答えた。
そんなもの書いたって本にはならない。
コンピューターには匂いがない。
紙の本には匂いが二つあるね。
新しい本は、すごくいい匂いがする。
古くなると、もっとよくなる。
時に、機械に敵対し、テクノロジーを恐怖するSF作家だった。
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
14歳のころ、ブラッドベリはハリウッドに引越す。
映画好きだったレイ少年は、来る日も来る日も
撮影所のまわりをうろついて、
有名人からサインをもらって写真を撮る。
試写会があればもぐりこむ。
週に4、5本は映画を見ていた。
それがのちに小説家になった時に役立ったという。
さんざん映画を見たおかげだな。
見たものを意識下にため込んでいたんだろう。
つまんないのも、すごいのも、
いっしょくたに消化吸収していた。
あとで戻っていって、
底にたまってたものを さらうんだ。
そうすれば本を書けるようにもなる。
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
高校を卒業後、ハリウッドで新聞売りをしながら、
いろいろな雑誌に作品を送り続けたレイ・ブラッドベリ。
そのひとつが女性向けの雑誌「マドモアゼル」。
編集助手として、まだ無名のトルーマン・カポーティが働いていた。
カポーティは、ブラッドベリの『集会』という
吸血鬼ものの原稿を買うことを上司に進言する。
電報が来たんだ。
「当雑誌に合うように書き直そうと考えていたんですが、
この作品に合うように当雑誌を変えることにいたします」
と書いてあった。
ハロウイーン号に載ったんだ。話が振るってるだろ?
天才同士の引力があったのだろうか。
この作品がきっかけで、彼は、
ニューヨークの知識人社会に仲間入りした。
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
レイ・ブラッドベリは、1947年、48年にO・ヘンリー賞を受賞。
短編の名手として地位を確立する。その頃、いろいろな人から
「映画の台本は書かないのか」と聞かれるようになった。
ブラッドベリは「ジョン・ヒューストンに頼まれたらね」と答えていた。
そして試しに短編集を監督本人に送ってみた。
のちにジョン・ヒューストンから電話が入り、
『白鯨』の脚本を手がけることになる。
ところが、破天荒な映画監督から
台本づくりに気持ちが入っていない、と辛辣な言葉を投げつけられる。
ブラッドベリがショックを受けていると、ジョンは冗談だと慰めにくる。
そんなことの繰り返しだった。
二人の亀裂が決定的になったのは、映画『白鯨』のクレジットだった。
共同で脚本を書いたことになっている。彼一人で書いたのに、だ。
ブラッドベリは作家組合に訴えた。
だが、クレジットを変えることはできなかった。
ジョンの存在が大きすぎたのだ。
その経験をもとに小説『緑の影、白いクジラ』を書いた。
二人は果たして和解できたのか。
彼が亡くなる直前、映画関係者と食事しているとこに出会った。
僕は近づいていって、ジョンを指差して
「こちらの方が私の人生をがらりと変えました。良いほうへ。
今夜、あらためてお礼を言います。
どうぞ、あちこちで噂をまいてください。
レイ・ブラッドベリは、ジョン・ヒューストンを敬愛し、
感謝を忘れない、と」
ブラッドベリは人生を愛する作家である。
por phototop
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
ブラッドベリは2003年にまとまった短編集を出した。
届いたゲラを見て泣いてしまったという。
それだけのものを一人で書いたとは思えなかったという。
自分で書いた二百の短編を見てると、
宇宙への大きな借りがあるんだと、つくづく思う。
いろんな遺伝子が何かしらのレベルで
実験を繰り返して、その結果、僕という形態が生じた。
これは自分で書いたものじゃないって思う。
ひとりでに書き上がっちゃったんじゃないか。
やっぱり宇宙からの贈り物だ。
宇宙のおかげで、私たちはブラッドベリの
切なく、妖しく、美しい小説を読むことができるのだ。
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
その著作が、世界25ヶ国で読まれているブラッドベリ。
人に好かれたいと思い、悪びれることなく名声に浴し、
有名であることを楽しんでいる。
ビバリーヒルズの街角に立っていたら、
俳優のシドニー・ポワチエが車で通りかかって、
車から降りて、大声で言った。
「ブラッドベリさん、シドニー・ポワチエです。
大好きです!」
それだけ言って、また走り出した。
ああいうことは忘れられない。
レイ・ブラッドベリ「愛するものへの言葉」
2003年、最愛の妻マギーを亡くしたブラッドベリは、
自分の墓は火星に立てたいと言っている。
できることなら火星に埋葬されたい。
遺灰はトマトスープの缶に入れてもらいたいな。
僕の名前のある墓石が火星に立って、
よく読まれた本の題名も書いておく。
墓石のてっぺんに小穴を掘って、
その下に注意書きがあるんだ。
「献花はたんぽぽに限る」
2011年12月、ブラッドベリは『華氏451度』の
デジタル化を許諾した。あれほど嫌っていた電子書籍だ。
『華氏451度』は社会的批評の要素があるけれど、
それは冒険物語という全体に隠れているんだ。
本を燃やしちゃいけないんだ。
でも、逆のことを言った方がおもしろい。
本を燃やそう、本は危険だから。
本を読むと人は考えてしまう。考えると悲しくなる。
コンピュータの画面に表示される本は焼くことができない。
未来の禁書隊から逃れることができる。
さようならレイ。
あなたがくれた未来に、たんぽぽの花を捧げます。
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