2012 年 8 月 26 日 のアーカイブ

三國菜恵 12年8月26日放送



夏の終わりに  鎌田敏夫(かまた としお)

関西弁で「そやさかい」というのを、
徳島弁では「ほなけんな」というのだそうだ。

徳島出身のシナリオライター
鎌田敏夫(かまたとしお)は、
こののんびりとした言い回しを聞くと、
故郷の夕なぎの景色を思い出すのだという。

 夏の夕方にそよとも風が吹かなくなる、あの一瞬。
 阿波弁を聞くと、ぼくは、いつも、そのときの空気を
 思い出してしまうのである。



夏の終わりに  青山七恵(あおやま ななえ)

「ひとり日和」などの作品で知られる
小説家・青山七恵(あおやまななえ)。

彼女はある夏、フランスに留学した。
そのときに、旅先から帰国後の自分へ手紙を送る、
というあそびをしてみた。

7月27日。
彼女は、手紙のなかで帰国後の自分にこう問いかけた。

 元気ですか?

それに対して、
8月31日の青山さんが書いたのは、こんなお返事。

 私はたぶん、少しだけ変わりました。
 学生時代からずっと長くしていた髪を切りました。
 少なくとも、髪の毛くらい、変えることはかんたんだと、
 よくわかりました。

夏のはじまりにはなかった気持ちが
夏の終わりには育っている。


きっちん
夏の終わりに 岡野廣美(おかの ひろみ)

東京・根津にある花屋
「花木屋」の店主、岡野廣美(おかのひろみ)。

彼女は職業柄もあってか、
匂いから季節を感じるのが得意なのだという。

十字路で沈丁花の香りに出くわせば、三月。
市場でバラの匂いがすれば、五月。
不忍池で蓮の匂いがあたり一面に漂えば、真夏。

そんな彼女に、都会で秋を感じる匂いを聞いてみた。

 空気が汚れていると、花つきが悪いと言われているキンモクセイも
 秋には香りのよいオレンジ色の花を咲かせます

キンモクセイが香るころは
衣替えも終わっているだろうか。

topへ

三島邦彦 12年8月26日放送


ヤマザキノブアキ
夏の終わりに 安野光雅(あんのみつまさ)

1945年の夏の終わり。
19歳の青年が、靴下いっぱいにつめた米を手に、
軍隊から両親の住む家へと帰ってきた。

出征の時に
両親と別れた峠に再びやって来ると、
ふもとの野原には曼珠沙華が一面に咲いていた。

 わたしは着ていたものをすべて脱いで煮沸し、
 シラミの卵を退治して、やっと兵隊というものから、
 普通の人間に戻ったのだと思っている。

青年はこうして自分の日常を取り戻していった。
焼け跡のぼろぼろになった街を歩きながらも、
安野の目には明るい未来がほのかに見えていた。

 絶望に似た不思議な混沌から、
 何かが芽生えてくる期待だけがあった。

青年の名前は、安野光雅。
豊かな色づかいとやわらかなタッチの水彩画で、
画家として、絵本作家として、
後に海外からも高い評価を受けることになる。

その夏の終わりは
日本中で新しい季節が始まろうとしていた。



夏の終わりに 堅田外司昭(かただ としあき)

1979年の夏の甲子園。
和歌山の箕島高校と
石川の星稜高校の延長戦は
星陵が2度のリードを守れず
最終イニングの18回へ。
両校とも体力は限界に達し、
決着は翌日の再試合に持ち越しかと思われた。

しかし、18回の裏、
星陵の堅田投手が投げた208球目が打たれ、
星陵の夏は突然の終わりを迎える。

その日を振り返り、堅田投手は言う。

 ぼくは泣かなかった。
 眠れずにみんなと話し合っていたことは、
 これで野球からしばらく解放されるということだった。

夏が終わるたび、球児たちは大人になる。
全力を尽くしたものだけが持つ輝きを手に入れて。

topへ

中村直史 12年8月26日放送


あまから
夏の終わりに   井上陽水と玉置浩二

せつなさを感じるのは、
大切にしたい何かをもっている証拠です、と言った人がいた。
大切にしたいと思う時間や、人物や、感情がある。
それらと自分の間に距離を感じてしまうとき、
せつなさを感じてしまうのだと。

8月最後の日曜日。
去りゆく夏を、どんな気持ちで見送ればいいだろう。
もし、せつない気持ちを感じていたら、
それは、何かを大切だと思っている証拠。

「夏の終わりのハーモニー」という歌がある。
井上陽水と玉置浩二、2つの才能が、奇跡的な出会いをしたこの歌も、
せつなさは決してネガティブな感情ではないと教えてくれる。

 真夏の夢 あこがれを
 いつまでも ずっと 忘れずに

忘れられないせつなさを抱きしめた
夏の終わりを感じられますように。

topへ

三島邦彦 12年8月26日放送



夏の終わりに  正岡子規

病の床で正岡子規は、
一年前の夏を思い出していた。
フランクリン大統領の自伝を読むことを日課にしていた夏だった。

 去年はこの日課を読んでしまうと、
 夕顔の白い花に風がそよいで
 初めて人心地がつくのであったが、
 今年は夕顔の花がないので暑苦しくて仕方がない。

晩夏の厳しい日射しの中で、
子規の最後の夏が
ゆっくり終わろうとしていた。

topへ

中村直史 12年8月26日放送


tokushima2000
夏の終わりに  桜井広海

なんにもしないうちに、
夏が終わってしまったなあ。
そんなセリフがちらほらと聞こえだすこの季節には、
15年前、とある男が海辺で言った一言を思いだす。

 夏の終わりは自分で決める。

テレビドラマ「ビーチボーイズ」の中で、
反町隆演じる桜井広海(さくらいひろみ)が言った言葉。

なにかはじめるのに遅いことなんてない。
そんな気持ちにさせてくれる。

topへ


login