蛭田瑞穂 12年9月8日放送
作家が暮らした家⑦開高健
ふつう私は小説家として暮らしている。
ここ五年ほどは湘南海岸の茅ケ崎市である。
海岸から三百メートルか四百メートルほどのところで
ひっそり起居している。
月曜日と木曜日の夕方になると二キロ離れたところにある
水泳教室へ行くために外出するが、
それ以外はほとんど家にたれこめたきりである。
作家開高健は1974年、東京杉並から湘南の茅ケ崎に居を移した。
58歳で亡くなるまでの15年間をそこで暮らした。
現在、開高健記念館として残るその家には
当時のままの書斎が保存されている。
壁に飾られているのは開高の愛した品々。
自らが釣り上げたキングサーモンやイトウの剥製。
何種類ものルアー。アラスカの地図。
書斎では作家の息遣いが今も聴こえる。