古居利康 12年10月14日放送
もうひとりのわたし 長谷川海太郎の場合
長谷川海太郎は、
まず、「谷譲次」という名前で、
米国に生きる日本人、
当時メリケンジャップと揶揄的に
呼ばれた男たちを主人公にした小説を書く。
米国に留学し、全土を放浪した経験が
作品に生きた。
次に、「林不忘」という名前で、
時代小説を書く。主人公『丹下左膳』は、
隻腕隻眼のニヒルなヒーロー。
作者よりも有名になる。
それだけではなかった。
「牧逸馬」という3つめの名前で、
こんどは欧米の犯罪小説の翻訳をやったり、
昭和初期の都市風俗小説を書いたりした。
3つの名前を自在に操り、
大衆文学界を縦横無尽に走り抜けた快男児。
その生涯、たった35年。
35年で3人分の人生を生きた。